この場面について
秋は、夕暮れが少しずつ早くなっていく季節です。夏の騒がしさが遠のき、夜が長くなるにつれて、ひとつの作品とじっくり向き合う時間が増えていきます。
秋の感情浴には、深さのある作品がよく合います。読み終えてから考え込んでしまう小説、胸の奥がきゅっと締まるような物語、心をふるわせる音楽。空気が澄んでくると、同じ作品でも夏に浴びたときとは違った響き方をすることがあります。長く積んでいた本に手を伸ばすのにも、ちょうどよい季節です。
秋に浸かった作品
この場面で記録された13作品を、しずくの多い順に並べています。しずくの数は、心が動いた大きさの目安です。

百七十五分、瞬きの回数を数えそこねた 李相日監督『国宝』
席を立つのが一番最後になった

いや、ほんとに、こういう職場があったらいいのに 『夜明けのすべて』
洗濯物をたたむ手が止まった

目を閉じたまま乗る、夜の汽車 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』を朗読で聴く
耳の奥に汽車の音が残りました

落ちている時間が、いちばん長かった 『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』
着地まで息を止めていた

最終巻が出る前の秋に 末次由紀『ちはやふる』
一つは十二月まで取っておく

滅びると分かっている人たちを、琵琶の音で見送る アニメ『平家物語』
目の奥が熱いまま終わった

六つの部屋の見取り図は、なぜ最後に描き変わるのか 一穂ミチ『スモールワールズ』
表紙をもう一度見た

押し入れの段ボールから、ふたりのナナが出てきた 矢沢あい『NANA』
押し入れの前で座りこみました

『花束みたいな恋をした』 五年分の骨組みが、少しずつずれていく
骨組みがきしむ音がした

最後の一曲が終わって、部屋の音が戻ってくるまで 藤井風『HELP EVER HURT NEVER』
余韻が長く残りました

碁のルールを知らないまま、白と黒の石に背中を熱くされた 『ヒカルの碁』
一局も分からないのに汗をかいた

草むらの向こうから、友の声がする 中島敦『山月記』(朗読で聴く)
夜明けの場面で息をのんだ

夕方の畦道で、名前を返す少年 『夏目友人帳』
夕方の色が残った
ほかの記録
感情浴会の記録や読みもののなかで、この場面にふれたものです。
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よく合う気持ち
この場面で浸かられることの多い気持ちです。言葉を選ぶと、気持ちの辞典に移ります。