空に浮かぶ島の端から、下の大地に向かって初めて飛び降りた。そのあいだずっと、スティックを倒した親指に力が入らなかった。
雲を抜ける。風の音だけになる。下に広がっているのは、前の作品で何十時間も歩いたハイラルの土地で、そこへ向かってただ落ちていく。着地のことなんて何も考えていなかった。考える余裕がなかったんだよな。
始まりの島では、ひととおり体の動かし方を覚えるまで、下には降りられない。そのあいだずっと、島の端から見える地上が気になっていた。雲の切れ目から、前に歩いた平原や、登った山の形がちらっと見える。あそこに帰れる。そう分かった瞬間に、もう指は前に倒れていた。
落ちているあいだ、画面の中の音楽はほとんど鳴らない。風を切る音と、服のはためく音。地面が近づくにつれて、見覚えのある川の曲がり方が大きくなる。久しぶりに地元の駅に降りたときの、あの感じに少し似ていた。
足もとが三つある
この作品の世界は、空と、地上と、地の底の三つに分かれている。空には大小の島が浮かんでいて、地上は前の作品と同じ土地がすっかり様子を変えて広がっていて、地面にあいた大きな穴を降りると、真っ暗な地底がどこまでも続いている。
いちばんやられたのは地底だった。何も見えない。光る種を投げると、その周りだけがぼんやり明るくなる。明るくなった輪の中に、見たことのない形の岩や、崩れた建物の影が浮かび上がる。遠くの山どころか、三歩先の坂が上りなのか下りなのかも分からない。
それでも先に進みたくなる。ここで一回コントローラーを置いた。怖かったんじゃない。広すぎて、少し休まないと自分のほうが持たなかった。
地上に戻ると、今度は空を見上げてしまう。あの島にはまだ行っていない。あの煙は何だろう。やることを並べた一覧を開かなくても、目に入ったものがそのまま次の行き先になる。分かれ道ばかりの地図を、ずっと手の中で広げているような感覚だった。
手で作る
主人公の右手の力で、落ちている板や丸太や車輪をくっつけて、乗りものや橋を作れる。攻略の話はしない。ただ、谷を渡るために丸太を二本つないだだけの、ひどく不格好な橋を渡り切ったとき、夜中に声が出た。
もっと上手な渡り方はいくらでもあったと思う。それでも、俺はあの橋で渡った。その手ごたえが、あとまでずっと残る。
別の日には、崖の上から車輪付きの板で下ろうとして、途中で板ごとひっくり返った。笑った。夜中にひとりで笑った。失敗してもすぐにやり直せるから、試すことが怖くない。怖くないから、次の坂にも向かっていける。
驚きは、たいてい誰かに用意されたものじゃなくて、自分の手でやったことの少し先にあった。この作品でいちばん心が動いたのは、そこだった。
誰に
- 休みの日にどこかへ行きたいのに、腰が上がらない人
- 前の作品を遊んで、あの土地にもう一度帰りたい人。見覚えのある場所が、別の顔で待っている
- ゲームがあまり得意じゃない人。戦うのが苦手でも、歩いて、見上げて、飛び降りるだけで、ちゃんと遠くへ行ける
いつ
秋の、予定のない週末がいい。夜に始めると止まらなくなるので、できれば朝から。窓を少し開けて、炭酸を一本用意して、最初の空の島から地上に降りるところまで。
そこで一度セーブして、外の空を見てほしい。いつもより高く見えるはずだ。
作品データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作品名 | ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム |
| 機種 | Nintendo Switch |
| 発売 | 2023年5月 |
| 開発・発売 | 任天堂 |
| 遊んだ長さ | 地底を歩き回ってばかりで、最後までに百時間を少し超えた |
近い気持ち
九月の感情浴会(第41回)で、俺が進行をした回の作品。はるまきの記録にある「空から落ちる時間の話ばかりしていた人」は、たぶん俺のことだ。
