この気持ちについて
ここで言う「ふるえる」は、怖さではなく感動のふるえです。美しい演奏を聴いたとき、長い物語が大きな円を描いて閉じたとき、腕に鳥肌が立ち、喉の奥が熱くなる。自分よりずっと大きなものに触れた瞬間の、体ごとの反応です。
この気持ちは、泣きたいとも熱くなりたいとも少し違います。涙が出ることもありますが、それより先に、言葉を失ってただ受け止めるしかない時間が来ます。感情浴の中でも、いちばん「浴びる」という言葉が似合う気持ちかもしれません。
恩田陸の小説『蜜蜂と遠雷』は、ピアノコンクールを舞台に、音を文字で聴かせるという難しいことをやってのけ、演奏の場面ごとに読み手をふるわせます。映画『ショーシャンクの空に』は、長い年月の忍耐の末に訪れる解放の場面で、多くの人の記憶に残ってきました。音楽では、ベートーヴェンの『交響曲第九番』のように、最後の楽章へ向けて長く積み上げていく曲が、この気持ちを最もまっすぐに連れてきます。
ふるえる感情浴には、途中で遮られない環境が欠かせません。音楽ならできるだけよい音で、映画なら部屋を暗くして、最後まで通して浴びてください。
ふるえたいときの作品
この気持ちで記録された9作品です。しずくの数は、心が動いた大きさの目安で、作品の出来を採点したものではありません。

百七十五分、瞬きの回数を数えそこねた 李相日監督『国宝』
席を立つのが一番最後になった

雨の田んぼ道で跳ねる、あのコマのこと 藤本タツキ『ルックバック』
見開きで本を閉じた

音が消えた数十秒に、家族の席へ座らされる 『コーダ あいのうた』
洗いものの手が止まりました

頁の上で、ピアノが鳴っていました 恩田陸『蜜蜂と遠雷』
頁をめくる指がふるえた
名前も知らない誰かと、山を目指した二時間 『風ノ旅ビト』
コントローラーを置いた

『BLUE GIANT』の河原には、雪が降っていた
指が勝手に動いた

鉛筆の線が五人になって、コートへ歩いてくる 『THE FIRST SLAM DUNK』
背中がずっと熱かった

最終巻が出る前の秋に 末次由紀『ちはやふる』
一つは十二月まで取っておく

明け方の渋谷が青く見えた日から 『ブルーピリオド』
背中が熱くなった
この気持ちになれる場面
ふるえたい作品が、どんな時によく浸かられているか。場面ごとに、作品と特集を束ねています。
この気持ちの特集
メンバーが作品を持ち寄った特集です。
近くにある気持ち
ふるえたい気持ちのとなりにある言葉です。少し違う角度から浸かりたいときに。