感情浴(かんじょうよく)は、作品に心を浸して、気持ちを動かす時間のことです。
森林浴が木々の空気を体いっぱいに浴びるように、感情浴では、物語や音楽や絵から、泣く・笑う・ときめく・懐かしむといった気持ちを浴びます。小説でも、漫画でも、映画でも、一曲の歌でも、一冊の絵本でもかまいません。作品の種類は問いません。大切なのは、作品のために時間をとり、その間だけは心を作品に預けることです。
どうして「浴びる」なのか
忙しい日が続くと、気持ちが動かないまま一日が終わることがあります。悲しいわけでも、楽しいわけでもない。ただ、心の表面が乾いて、何を見ても手ごたえが薄い。
そんなときに一本の作品に身を任せると、止まっていたものがふっと流れ出すことがあります。涙が出たり、笑い声が出たり、ため息がこぼれたり。流れたあとには、湯上がりのような軽さが残ります。
私たちはこの感覚を、湯に浸かることに近いものだと考えてきました。お風呂に入るとき、体をよくしようと力んだりはしません。ただ浸かって、温まって、上がる。感情浴もそれと同じで、何かを学ぼうとしたり、作品を評価しようとしたりせず、気持ちが動くのに任せます。「読む」「観る」ではなく「浴びる」と呼ぶのは、そのためです。
「泣ける作品」との違い
気持ちを動かす作品と聞くと、泣ける作品を思い浮かべる方が多いかもしれません。泣くことは感情浴の大切な一部ですが、すべてではありません。
声を出して笑うこと、胸がときめくこと、背筋がぞくっとすること、遠い土地に行きたくなること、誰かに会いたくなること。どれも心が動いたしるしで、どれも感情浴です。ラルムでは、こうした気持ちを二十四の言葉に分けて「気持ちの辞典」にまとめています。
もうひとつの違いは、作品を先に決めるのではなく、気持ちを先に決めることです。「この作品は泣けるらしい」から始めるのではなく、「今夜は泣きたい」「今日は笑いたい」という自分の状態から始めます。同じ作品でも、浴びるときの気持ちや場面によって、届き方はまったく変わるからです。
感情浴の始め方
特別な準備はいりません。はじめての方は、次の順番を目安にしてみてください。
- 今の気持ちをひとつ選ぶ 「気持ちの辞典」の二十四語から、いちばん近いものを選びます。分からなければ、今いる場面(眠れない夜、雨の日など)から探してもかまいません。
- 作品をひとつに絞る あれもこれもと欲張らず、一冊、一本、一枚に決めます。迷ったら、ラルムの作品の記録で、その気持ちがついた作品から選んでください。
- 時間と場所を用意する 途中で止めずに最後まで浴びられる時間をとります。通知を切り、部屋の明るさや音量を作品に合わせると、深く浸かれます。
- 気持ちが動くのに任せる 泣きそうになったら泣き、笑いそうになったら笑います。無理に泣こうとしたり、感じなければと焦ったりする必要はありません。何も起きない日があっても、それで大丈夫です。
- 上がったあとに少し余白をおく 浴び終えたら、すぐに次のことを始めず、しばらく余韻の中にいます。心に残った場面を一行だけ書きとめておくと、次の感情浴の手がかりになります。
感情浴は、体や心の不調を治すためのものではありません。つらさが長く続くときは、身近な人や専門の窓口を頼ってください。感情浴は、その横にそっと置いておくものです。
しずくの数について
作品の記録には「しずくの数」をつけています。記録者の心が、その作品でどのくらい大きく動いたかの目安で、一つから五つまであります。
しずくは作品の出来を点数にしたものではありません。しずくが一つの作品が、五つの作品より劣っているわけではありません。静かに少しだけ心を動かすことが持ち味の作品もあれば、大きく揺さぶることが持ち味の作品もあります。
また、しずくの数は、記録者がそのとき、その場面で浴びたときのものです。同じ作品でも、別の人が、別の時期に浴びれば数は変わります。ラルムでは、その揺らぎも含めて記録だと考えています。しずくの決め方は「編集方針」に詳しく書いています。
ラルムの歩き方
ラルムは、いくつかの入口から作品を探せるようにしています。
- 気持ち 二十四の気持ちの言葉。それぞれのページが辞典の一項目になっていて、その気持ちを連れてくる作品が並びます。
- 場面 失恋した夜、眠れない夜、雨の日、季節など、どんなときに浴びるかから探す入口です。
- 作品の記録 一作品ごとの記録です。心が動いた場面、誰に、いつ浴びてほしいかを、記録者が一人で書いています。
- 特集 ひとつの場面や季節、気持ちに合う作品を、複数のメンバーで選んで束ねたものです。
- 感情浴会の記録 月に一度、オンラインで同じ作品を味わう会の報告です。
- しずく通信 季節ごとに出している会報のバックナンバーです。
- しずく大賞 その年いちばん心が動いた作品を、メンバーの投票で選んだ結果と選評です。
- 読みもの メンバーのエッセイや連載です。
どこから入っても、最後は一つの作品と、一つの気持ちにたどり着くように作っています。今の自分に合う一滴が見つかりますように。