ラルム / 作品の記録

2022.10.23媒体 アニメ記録 凪

滅びると分かっている人たちを、琵琶の音で見送る アニメ『平家物語』

目の奥が熱いまま終わった
『平家物語』の表紙
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琵琶を抱えた小さな少女が、平家の屋敷の中で、まだ何も知らずに笑っている人たちの顔を、じっと見ている。自分にとってのこの作品は、ほとんどあの目つきに尽きるんです。

少女の名前は、びわ。琵琶を弾いて暮らしていた父を、平家の手の者に殺されて、行くあてをなくしたところを、平家の嫡男である平重盛に拾われるんです。びわの片方の目は、人の先のことが見える。重盛の片方の目は、死んだ人の姿が見える。二人はそれぞれ、見たくないものを見てしまう目を持ったまま、同じ屋敷の中で暮らすことになる。

びわには、この一族がこれからどうなるのかが、見えているんですよね。見えているのに、どうすることもできない。自分はこの設定が分かった時点で、もう喉の奥が少し重くなっていました。

結末を知っている物語

『平家物語』の結末は、歴史の教科書にも載っています。栄えた一族が、やがて滅びる。この作品は、それを隠しません。

だから、これはネタばれを気にする話じゃないんです。むしろ、最初から終わりを知っている者として、びわと一緒に、一人ひとりの顔を見ていく話なんだと思います。

重盛の妹の徳子。重盛の子どもたち。笛の上手な少年、戦が怖くて仕方のない少年、明るくふるまう少年。自分は最初、名前がなかなか覚えられなくて、途中で一度、人物の関係を紙に書きました。でも、覚えてしまうと、もうだめなんです。この子たちの行く先を、びわと同じように、自分も知ってしまっている。

笑っている場面ほど、観ていてつらい。季節の行事で着飾った若者たちが、屋敷の庭で楽しそうに笑う。背景の色はとてもやわらかくて、光がきれいで、その明るさの分だけ、この先の暗さが胸に来る。何回観ても、ここ、本当に、笑顔の場面でこそ目の奥が熱くなります。

びわのこと

びわは、ほとんど年をとりません。まわりの人たちが大人になり、年をとり、いなくなっていくのに、びわだけは小さな体のまま、琵琶を抱えて旅を続ける。

それがどういう意味なのかは、観る人によって受け取り方が違うと思います。自分は、びわが、この物語を語り継ぐ人そのものなんだと思って観ていました。いなくなった人たちのことを、誰かが覚えていて、誰かが語る。そのために、びわはそこにいる。

最終話のことは、書きません。ただ、最後の数分、びわが何を弾くのかを、ちゃんと聴いてほしいです。

音のこと

それから、音楽のことも書かせてください。

オープニングの曲は、羊文学の「光るとき」です。歌詞には触れませんが、この曲が流れるたびに、ああ、また一話ぶん、この人たちの終わりに近づいたんだな、と思わされました。明るいギターの音なのに、聴くたびに胸の奥が少しずつ重くなっていく。何回観ても、ここ、本当に、飛ばせないんです。

びわが弾く琵琶の音も、この作品の大事な語り手です。言葉にしない場面ほど、琵琶の低い音が、画面の奥で鳴り続けています。

誰に浴びてほしいか

  • 大切な人を見送った経験がある人
  • 終わりが分かっているものを、それでも大事にしたい人
  • 古典は苦手、という人。自分もそうでしたが、この作品は一話三十分弱で、とても観やすいです

いつ浴びるか

秋の夜長に。全十一話なので、二晩か三晩に分けて観るのがちょうどいいと思います。

眠れない夜に、一話だけ観るのも悪くありません。ただ、途中から止めどきが分からなくなるので、それだけは覚悟してください。

作品データ

項目 内容
作品名 平家物語(テレビアニメ)
原作 古川日出男の現代語訳『平家物語』
監督 山田尚子
脚本 吉田玲子
キャラクター原案 高野文子
音楽 牛尾憲輔
制作 サイエンスSARU
媒体 アニメ
公開 2021年9月に配信、2022年1月〜3月にテレビ放送
話数 全11話

近い気持ち

会でこの作品を観た夜、加わったばかりの草餅が、しばらく黙ってから、びわの目の色の話をしてくれました。それが自分には、すごく残っています。

(記録:凪)

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