この気持ちについて
考え込みたいという気持ちは、少し変わった欲求に聞こえるかもしれません。けれど、すぐに答えの出ない問いを抱えて黙っている時間には、ほかでは得られない充実があります。情報を次々に浴びる毎日の中で、ひとつのことを長く考える機会は意外と少ないものです。
この気持ちの感情浴は、見終えたところから始まります。作品が閉じても問いが閉じず、数日たってから別の場面がふいに思い出される。泣く・笑うのような分かりやすい動きはなくても、心の底のほうがゆっくり動き続けている状態です。
カズオ・イシグロの小説『わたしを離さないで』は、穏やかな語りの奥に大きな問いを隠していて、読み終えてから重さが増していきます。岩明均の漫画『寄生獣』は、人間とそうでないものの境目を最後まで問い続けます。映画『十二人の怒れる男』は、ひと部屋の中の議論だけで、正しさとは何かを観る側にも考えさせます。
考え込む感情浴は、誰かと話したくなる気持ちとも相性がよいものです。感情浴会でこの気持ちを選ぶと、作品の時間より話し合いの時間のほうが長くなりがちです。
考え込みたいときの作品
この気持ちで記録された17作品です。しずくの数は、心が動いた大きさの目安で、作品の出来を採点したものではありません。

百七十五分、瞬きの回数を数えそこねた 李相日監督『国宝』
席を立つのが一番最後になった

『夏の庭 The Friends』 見張るはずだった夏が、通う夏に変わる
しばらく動けなかった

消す手術は一晩で終わる。消えないものの話 ミシェル・ゴンドリー監督『エターナル・サンシャイン』
缶コーヒーを開けたまま、飲まなかった

きらきらの裏側を、十六冊ぶん 赤坂アカ・横槍メンゴ『【推しの子】』
一巻で三回止まった

分かりあえないまま、同じ台所に立つ ヤマシタトモコ『違国日記』
分からないままで、いい

火事の夜が、三回映る 是枝裕和監督『怪物』
二回目で、最初の場面が違って見えた

硬度三半の主人公が、夜の見回りに会いにいく 市川春子『宝石の国』
指先が冷たくなった

滅びると分かっている人たちを、琵琶の音で見送る アニメ『平家物語』
目の奥が熱いまま終わった

卵ひとつの重さを、十五巻かけて量りなおす 荒川弘『銀の匙 Silver Spoon』
卵を割る前に手が止まった

たった一行で、島の見取り図が書き換わる 綾辻行人『十角館の殺人』
最初の頁に戻った

六つの部屋の見取り図は、なぜ最後に描き変わるのか 一穂ミチ『スモールワールズ』
表紙をもう一度見た

草むらの向こうから、友の声がする 中島敦『山月記』(朗読で聴く)
夜明けの場面で息をのんだ

窓の外を見ている人の、窓のこと 星野源『いのちの車窓から』
窓の外を見たくなった

地下の方舟で、誰を残すのか 夕木春央『方舟』
閉じてから寒気が来た

「普通」の見取り図は、誰が描いたのか 村田沙耶香『コンビニ人間』
読み終えてからずっと考えている

「わかる」と言えなくなる本 朝井リョウ『正欲』
揺れるより先に、黙った

泣けなかった、でもずっと考えている 宮﨑駿監督『君たちはどう生きるか』
まだ考え中
この気持ちになれる場面
考え込みたい作品が、どんな時によく浸かられているか。場面ごとに、作品と特集を束ねています。
近くにある気持ち
考え込みたい気持ちのとなりにある言葉です。少し違う角度から浸かりたいときに。