ラルム / 作品の記録

2026.10.24媒体 映画記録 ロク

十一対一から始まる、九十六分の部屋 映画『十二人の怒れる男』

部屋から一歩も出ないのに、息が上がった
『十二人の怒れる男』の表紙
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十一対一。最初の投票の数だ。

部屋はひとつ。窓が少し。机が一つと、椅子が十二。九十六分のほとんどを、カメラはそこから出ない。それでも、僕は途中で一度も時計を見なかった。

夏の午後の陪審員室

ニューヨークの裁判所。父親を刺し殺した罪に問われた、十八歳の少年の裁判が終わる。

評決を決めるのは、十二人の陪審員だ。全員一致でなければならない。有罪なら、少年は死刑になる。

暑い日だ。部屋の扇風機は、最初は回らない。男たちは上着を脱ぎ、汗を拭き、早く帰りたがっている。野球の試合の券を持っている者もいる。証拠はそろっている。証人もいる。投票すれば、すぐに終わるはずだった。

手を挙げなかったのが、一人。陪審員八番だ。ヘンリー・フォンダが演じている。

彼は、少年が無実だと言っているのではない。分からない、と言う。分からないまま、人の命を五分で決めたくない。だから少し話そう、と。

歯車を一つずつ外す

要するに、組み上がった機械を分解していく映画だ。

検察の話は、よくできた機械に見える。凶器のナイフ。向かいの部屋から見ていたという女。階下で叫び声を聞いたという老人。部品はそろっている。噛み合っている。

八番は、その歯車を一つずつ外して、光にかざす。本当にこの形か。本当にここに嵌まるか。答えを出すのではない。疑いを置くだけだ。

外された歯車を見て、ほかの十一人が一人ずつ動く。その動き方が、全員違う。

理屈で動く者がいる。年寄りで、八番に最初に味方する者がいる。何も考えていなかったと気づく者がいる。最後まで怒鳴り続ける者もいる。その怒りの根っこが何なのかは、終盤まで見えない。

画面の端の汗

カメラは、時間とともに少しずつ低くなる。最初は男たちを上から見ている。終わりのほうでは、下から顔を見上げている。部屋が狭くなっていくように見える。天井が迫ってくるように見える。

汗も増える。シャツの色が変わっていく。外では、途中から雨が降り出す。

僕は、映画の途中で一度だけ止めた。八番が、ポケットからあるものを出す場面だ。止めて、缶コーヒーを開けた。それから続きを観た。

観終えて残るもの

結末は書かない。白黒の、六十年以上前の映画だ。それでも、観終えたあとの胸の中は、新しい映画を観たあとと同じくらい忙しかった。

すっきりした。それは確かだ。けれど、すっきりの下に、考え込むものが残る。僕は最初の投票で、どちらに手を挙げただろう。たぶん、十一のほうだ。夜勤明けで、早く帰りたい日なら、なおさら。

この映画は、その「早く帰りたい」を責めない。ただ、そこから一歩だけ、話をしようと言う。


浴びてほしい人

  • 会議で、言いたいことを飲みこんだまま帰ってきた人
  • 古い映画は退屈だと思っている人。九十六分は短い
  • 一つの部屋だけで進む話が好きな人

浴びる時間

ひとりの週末の夜に。途中で止めずに観るほうがいい。部屋の暑さと、外の雨の順番ごと、浴びてほしい。

項目 内容
原題 12 Angry Men
監督 シドニー・ルメット(初めての長編映画)
脚本 レジナルド・ローズ(自作のテレビドラマが元)
出演 ヘンリー・フォンダ、リー・J・コッブ、E・G・マーシャル ほか
公開 1957年(日本は1959年)
上映時間 96分(白黒)

近い気持ち

会では取り上げていない。いつか「考え込みたい」の回で出したい。いまの一滴舎は十三人。十二人の役が足りて、一人は記録に回れる。

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