終わりのほうの回の、ある試合の途中で、画面の線がぶれるように揺れて、汗と息の音しか聞こえなくなる、あの数十秒のことから話させてください、あそこで自分は、ソファの上で膝を抱えたまま、まったく動けなくなっていたんです。
二人の幼なじみ
主人公は、卓球部の高校生が二人です。
ひとりは、ペコ。小さい頃から卓球が抜群にうまくて、本人もそれを分かっていて、練習はさぼるし、試合の前にお菓子ばかり食べているし、とにかく調子に乗っている。
もうひとりは、スマイル。あだ名とは逆に、まったく笑わない。ペコの幼なじみで、子どもの頃、いじめられていたところをペコに助けられたことがある。それ以来、スマイルにとってペコは、ずっとヒーローなんです。
スマイルも、本当はものすごく強い。でも、試合で相手を負かしそうになると、手を抜いてしまう。勝ちたいという気持ちが、どこかに置き忘れられているように見える。
二人のまわりに、ほかの高校の強い選手たちが出てきます。中国から来た留学生、名門校の絶対的な王者、そしてペコとスマイルのもうひとりの幼なじみで、才能はないと言われながら、誰よりも練習してきた選手。
才能がないほうの人
ここ、本当に、何回観ても同じところで喉がつまるんですけど、自分がいちばん心を持っていかれるのは、主人公の二人じゃなくて、その、才能がないと言われてきた幼なじみのほうなんです。
彼は、ペコに勝ちたくて、ずっと練習してきた。ペコが遊んでいるあいだも、ひとりで台に向かってきた。そして、ある試合で、ついにペコに勝つ。
なのに、勝ったあと、彼はちっとも嬉しそうじゃない。
勝った相手が、本気を出していなかったから。いちばん欲しかったものは、勝ちそのものじゃなくて、本気のペコと打ち合うことだったから。そのことを、彼がペコにぶつける場面があって、自分はそこで、外回りの仕事でうまくいかなかった日のことを、なぜか全部思い出していました。
鉛筆の線みたいな絵
湯浅政明監督の絵は、きれいに整った線じゃなくて、ちょっと歪んだり、ぶれたり、急に画面がいくつにも割れたりする、手描きの勢いがそのまま残っているような絵なんです。
最初の一話目は、正直、少し戸惑いました。でも、試合の場面になると、その歪みが、そのまま選手の体の感覚になる。速すぎる球は線になって消えて、追いつけないときは、画面の向こうがやけに遠くなる。最後の一周で、足がもう自分のものじゃなくなっていく、あの感じが、絵からそのまま伝わってくるんです。
原作の漫画は、二〇二二年の夏に、しずく通信の選書に自分が出した本でした。そのときは、最後の試合で手のひらに汗が出る、と書いた。アニメで観ると、汗が出るどころか、背中ごと熱くなる。
握りなおすまで
結末には触れません。
ただ、全部で十一話のうち、最後の何話かで、ヒーローを待っていた子と、ヒーローだったはずの子が、それぞれ自分の手でラケットを握りなおすまでの話になっていきます。誰かに助けてもらうのを待つんじゃなくて、自分で台の前に立つ。
最終話の一つ前の回で、自分はもう声が出なくなっていて、最終話は、ほとんど画面がにじんで見えていませんでした。観終わったあと、無性に、高校の部活で一緒だった友だちに連絡したくなって、十年ぶりくらいにメッセージを送りました。返事は、次の日の昼に来ました。
浴びてほしい人
- 努力してきたのに、才能のある人にあっさり並ばれた経験がある人
- 昔のチームメイトに、しばらく会っていない人
- 整った絵より、勢いのある線が好きな人
浴びる時間
ひとりの週末に。十一話なので、土曜の夜から日曜にかけて、一気に観られます。秋の、少し肌寒くなった夜がいい。試合の場面で体が熱くなるので、毛布は一枚で足ります。
作品データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作品名 | ピンポン THE ANIMATION |
| 原作 | 松本大洋『ピンポン』 |
| 監督 | 湯浅政明 |
| アニメーション制作 | タツノコプロ |
| 放送 | 2014年4月〜6月(全11話) |
近い気持ち
- 熱くなりたい……線がぶれるほどの、試合の数十秒
- ふるえたい……勝ったのに、嬉しくない人の顔
- 誰かに会いたくなりたい……観終わって送った、十年ぶりのメッセージ
会では、まだ取り上げていません。毎月の候補の三つには、これまでに二回入れたことがあって、二回とも選ばれませんでした。三回目は、たぶん、もう少しうまく推せる気がしています。
