ラルム / 作品の記録

2020.10.25媒体 アニメ記録 十一

夕方の畦道で、名前を返す少年 『夏目友人帳』

夕方の色が残った
『夏目友人帳』の表紙
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西日の畦道。少年の影が、田んぼの上に長く伸びる。足もとには、丸い体の猫が一匹。

この一枚で、この作品の半分は言えてしまう気がする。

『夏目友人帳』。妖怪が見える少年、夏目貴志の話である。

幼いころに親を亡くし、親戚の家を転々としてきた夏目は、遠い親戚の藤原夫妻に引き取られ、ある田舎町で暮らし始める。そこで、祖母レイコが遺した一冊の帳面を手にする。「友人帳」。レイコが勝負をして負かした妖怪たちの名前が、そこに集められている。名前を握られた妖怪は、持ち主に逆らえない。

夏目は、その名前を一つずつ返していくことに決める。

用心棒は、招き猫に封じられていた妖怪。見た目は太った猫、呼び名はニャンコ先生。

名前を返す場面

紙を一枚くわえて、息を吹く。書かれていた文字が、光の粒になってほどけ、持ち主のもとへ帰っていく。

その一瞬、夏目の中に、レイコと妖怪が出会った日の記憶が流れこむ。

ワタシがこの作品を観続けた理由は、ほとんどこの場面にある。つまり、光。暗い場所から、ふっと明るいものが立ちのぼる。構図としては毎回ほとんど同じなのに、流れこむ記憶の色が、回ごとに違う。夏の緑。秋の稲穂。雪の白。

レイコは、誰にも理解されず、ひとりで妖怪と遊んでいた人である。その孤独が、名前を返すたびに少しずつ見えてくる。夏目は、会ったこともない祖母の寂しさを、他人の記憶越しに受け取っていく。

太った猫と、夕飯の明かり

重い話ばかりではない。

ニャンコ先生は、酒と饅頭が好きで、口が悪く、すぐに寝る。用心棒のくせに、夏目より先に逃げることもある。この丸い体が画面の端にいるだけで、構図の重心が少し下がる。暗い回でも、観ている側が沈みきらずにすむのは、たぶんこの猫のおかげである。

それから、藤原家の食卓。塔子さんの作る夕飯。台所から漏れる明かり。長く居場所のなかった少年が、その明かりの中に座っている。背景の色は、ここだけ少し温かい。ワタシは、戦う場面より、この食卓の場面を何度も一時停止した。

好きな回

小さな祠の神様の話。

人に忘れられるほど、姿が小さくなっていく神様がいる。その祠には、若いころから一人でお参りを続けてきた老婆がいる。神様は、その老婆ひとりのために、そこに残っている。

先は書かない。ただ、この回の最後の数分は、画面の色がとても静かである。台詞より、背景の余白のほうが多くを語る。

説明しない作品

この作品は、夏目の気持ちを台詞でほとんど説明しない。

人に頼るのが下手な少年。藤原夫妻に迷惑をかけたくなくて、妖怪のことを隠し続ける。本当は誰かに話したい。その気持ちは、言葉ではなく、夕飯の食卓の明かりや、玄関で振り返るときの横顔で描かれる。

ワタシは、登場人物の気持ちを説明しすぎる作品が苦手である。この作品は、その反対側にいる。

しずくは三つ。泣かされる作品ではない。ただ、観終えたあと、窓の外の夕方の色が、いつもより長く目に残る。

誰に

人に頼るのが下手な人。家族や身近な人に、言えないことを抱えている人。

妖怪ものは苦手、という人でも観られると思う。怖い回もあるが、たいていは、寂しい誰かの話である。

いつ

疲れて帰ってきた日の夕方。一話ごとに話が閉じる回が多いので、一話だけで終えられる。

秋の休日の朝に、窓を開けて観るのも悪くない。画面の中の空と、外の空の色を見比べるといい。

作品データ

項目 内容
作品名 夏目友人帳(テレビアニメ)
原作 緑川ゆきの漫画(白泉社「LaLa」連載)
監督 大森貴弘
制作 ブレインズ・ベース
媒体 アニメ
放送 第1期は2008年7月〜9月
話数 第1期は全13話(1話およそ24分)。続きの期も多い

近い気持ち

九月の感情浴会(第5回)で取り上げた。凪の進行、記録はワタシ。会ではあの祠の回を、一緒に観た。

(記録:十一)

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