夜の八時半。雨戸を半分だけ閉めて、机の上に文庫本を置きました。付箋が一枚だけ、はさんであります。
十月の感情浴会は、綾辻行人の小説『十角館の殺人』でした。進行は鹿の子。初めての進行です。
大学のミステリ研究会の七人が、十角形の奇妙な館の建つ無人の島へ渡る。そこで一人ずつ、仲間が消えていく。同じころ、本土でも別の動きが始まっている。そういう話です。
会の前に、鹿の子から約束が一つ届いていました。結末には、どんな形でも触れないこと。すでに読んだことがある人も、初めて読んだふりをすること。
当日は、少し変わった進み方になりました。
はじめの三十分は、まだ読み終えていない人のための時間でした。ヤギとめじろが、残りの数十頁を読みます。そのあいだ、ほかの七人は画面の前で黙って待ちました。ときどき、ヤギのマイクから頁をめくる音だけが聞こえていました。
ヤギが最後の数頁のところで、声を出さずに天井を見上げたのが、画面越しに分かりました。
全員が読み終えてから、鹿の子がひとつだけ問いを出しました。どこで最初に、おかしいと思ったか。結末ではなく、その手前の話をしよう、という問いです。
ロクは、島の場面の空気の描き方に、最初から骨組みの違和感があったと言いました。凪は、まったく気づかなかった、と正直に。はるまきは、途中で犯人を三回変えたそうです。
途中で、ヤギの音声が二重に聞こえるようになり、五分ほど中断しました。直ってからのヤギの第一声は、まだ手が震えてる、でした。
わたしは、たぶん二度目の読書でした。それでも、あの一行のところで、少しだけ息が止まりました。知っていても驚ける。付箋はそこに貼ってあります。
会のあと、何人かが最初の頁から読み返したと聞きました。わたしもです。
(記録:灯)