ラルム / 作品の記録

2024.11.10媒体 映画記録 はるまき

いや、ほんとに、こういう職場があったらいいのに 『夜明けのすべて』

洗濯物をたたむ手が止まった
『夜明けのすべて』の表紙
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子どもたちを寝かしつけて、居間の床に乾いた洗濯物の山を広げて、たたみながら観はじめたんです。最初の十五分で、もう手が止まっていました。

二人のこと

主人公は二人です。

藤沢さんは、月に一度、自分でもどうにもならないくらいいらいらしてしまう。前の職場では、それでうまくいかなくなって、辞めています。山添くんは、ある日突然、電車に乗れなくなった。息ができなくなる発作があって、それからは遠くへ出かけることも、前の仕事に戻ることもあきらめかけている。

そんな二人が、同じ小さな会社で働いています。子ども向けの理科の道具を作ったり、移動式のプラネタリウムを持って出かけたりする会社です。社長も、ほかの社員さんたちも、なんだかのんびりしている。

最初、二人はぜんぜん仲良くありません。藤沢さんがいらいらを爆発させて、山添くんがそれを冷ややかに見ている。いや、ほんとに、最初の出会いはひどいんですよ。でもある日、藤沢さんは、山添くんも自分と同じように、体と心の中の「どうにもならないもの」を抱えていると知るんです。

心が動いたところ

はるまきが洗濯物をたたむ手を止めたのは、藤沢さんが山添くんの部屋で、いきなり彼の髪を切りはじめる場面でした。床屋に行くのもしんどい山添くんを見て、藤沢さんは、それなら自分が切ると言い出すんです。はさみを持って、ざくざくと。

これがね、恋愛の場面じゃないんです。二人は最後まで、いわゆる恋人にはならない。ならないのに、相手の困りごとに、こんなに素直に手を出せる。はるまきはそこで、なんだか泣き笑いみたいな顔になってしまいました。

あとから思い出すのは、自転車の場面です。電車に乗れない山添くんが、自転車に乗って、長い道をひとりで走っていく。夕方の光の中で、ただペダルをこいでいる。それだけの場面なのに、ことこと煮込んだスープの最後のひと煮立ちみたいに、胸があたたまりました。

大きな事件は起きない

この映画には、悪い人が出てきません。誰かが誰かを救う、という大きな話でもありません。ただ、しんどさを抱えた人たちが、ちょっとずつ持ち寄って、ちょっとずつ助け合っている。会社の人たちも、それぞれに何かを抱えているのが、あとから少しずつ見えてきます。社長さんがときどき、仕事終わりにどこかへ出かけていく。その行き先が分かったとき、はるまきは、この会社の空気のやさしさの理由が、少し分かった気がしました。

それから、職場の場面が、ほんとうにいいんですよ。お昼休みに、みんなでなんとなく同じ机でお弁当を広げる。誰かが体調を崩して早退しても、誰も責めない。仕事の量は、できる人ができるぶんだけ。こういう職場、現実にはなかなかないのかもしれません。でも、なかなかないからこそ、観ているあいだだけでも、そこで働いている気分になれる。はるまきは、ちょっとだけ転職したくなりました。家でできる仕事なので、転職先はないんですけどね。

最後に、会社のプラネタリウムの催しがあります。どんな催しかは、観てのお楽しみ。夜と、夜明けの話です。はるまきは、観終わってから、ベランダに出て空を見ちゃいました。

浴びてほしい人

  • 自分の体や心のことで、周りに迷惑をかけていると思ってしまう人
  • 職場の人間関係に、ちょっと疲れている人
  • 大きな感動より、小さなあたたかさがほしい人

いつ浴びるか

仕事で疲れた日の夜に。家事の途中でも大丈夫です。はるまきみたいに、途中で手が止まるかもしれませんけど。秋の夜の、少し長くなってきた時間にちょうどいい長さです。

作品データ

項目 内容
作品名 夜明けのすべて
監督 三宅唱
原作 瀬尾まいこの小説
出演 松村北斗、上白石萌音 ほか
公開 2024年2月
上映時間 約119分

近い気持ち

十月の感情浴会(第54回)で取り上げた作品です。進行はロク、記録ははるまき。会のあと、何人かが「職場の誰かに、ちょっとだけ優しくしてみる」と言っていて、それがなんだか一番の感想だった気がします。

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