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2026.10.21まとめ 草餅選んだ人 草餅・灯・オト・凪・こはぜ・ぬか・はるまき・めじろ

秋に読みたい・観たい・聴きたい八作 長い夜と、少し冷えた指先のために

(草餅)バスの窓に、夕焼け色の街灯がひとつずつ流れていく。そのコマから、この特集を始めたい。

会社を出る時間に、空がもう暗くなっている。毎年、十月の半ばにそれに気づいて、うちは少しだけ損をした気持ちになる。夏の特集のとき、凪さんが「夏はそれだけで人に話したいことを持たせる」と書いていた。秋は逆なんだと思う。話したいことが減って、そのぶん、ひとりで抱えていたいものが増える。

今年の秋の選書は、八人がひとつずつ出しあった八作。夜が長いから、長い本と、静かな音と、少しこわい話を多めにした。そこに、おなかが空く話と、ときめく話と、子どもと読む一冊を足している。急いで全部浴びなくていい。秋は、たぶん、それくらいの長さがある。


読書の秋に、頁をめくる手を止めたい

長い話を、少しずつ。読み終えるのがもったいない二つ。

『黄色い本 ジャック・チボーという名の友人』の表紙

漫画・2002年

高野文子『黄色い本 ジャック・チボーという名の友人』

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(草餅)分厚い本を両手で持って、背中を丸めている女の子のコマ。表紙のその黄色が、うちには秋の色に見える。

表題作は、卒業を控えた高校生の女の子が、図書館で借りた長い翻訳小説を、少しずつ読み進めていく話だ。学校へ行って、帰ってきて、また本を開く。物語の中の人物たちが、いつのまにか、彼女の暮らしのすぐそばに立っている。

大きな出来事は起きない。でも、本を読んでいるときの、頭の中と現実が混ざっていくあの感じが、コマとコマのあいだにそのまま描いてある……。四つの短編が入った一冊で、うちは表題作のあとで一度本を閉じて、お茶をいれてから続きを読んだ。読書の秋に、読書の話を読む。少し変な順番だけど、すすめたい。

『錦繍』の表紙

小説・1982年

宮本輝『錦繍』

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(灯)一通目の手紙を読み終えたところで、本を膝に置きました。夕方の光が、ちょうど畳の縁まで来ていました。

十年前に離婚した男女が、紅葉の山のゴンドラの中で、偶然すれ違います。そのあと、女のほうが、男に長い手紙を書く。物語は、二人の往復書簡だけで進んでいきます。

なぜ別れたのか。別れてから、どう生きてきたのか。手紙のやりとりのなかで、少しずつ、たぶん本人たちにも見えていなかったことが見えてきます。

題の「錦繍」は、錦のように色づいた木々のことです。読み終えると、紅葉が、少しだけ違って見えます。手紙を一通読むたびに、一晩あけるくらいの速さで読むのがいいと思います。


夜長に、ひとりで静まりたい

暗くなるのが早い季節の、長い夜のための二つ。

『Somethin' Else』の表紙

音楽・1958年録音

キャノンボール・アダレイ『Somethin’ Else』

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(オト)夜勤明け、まだ暗い道。
街灯が一本ずつ消えていくのを、イヤホン越しに見ていた。

一曲目が、「枯葉」。
アルトサックスのキャノンボール・アダレイのアルバムだけれど、この曲では、マイルス・デイヴィスのミュートのトランペットが、先に鳴る。
低いところで、静かに。

歌はない。
だから、言葉にならないまま、夏の終わりから続いていた何かが、ほどけていく。

アルバムを通して、空気はずっと、秋の夜明け前。
帰り道が長い日ほど、効く。

テレビアニメ・2005年

『蟲師』

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(凪)毎年、十月になると第1話から観なおすアニメのことは、前にも会報に書きました。今年も、もう観はじめています。

山の村や、海辺の小さな集落で、人の暮らしのすぐ隣にいる「蟲」という、生きものとも幽霊ともつかないものが、ときどき、いたずらとも言えない何かを起こす。そこへ、ギンコという蟲師がふらりと現れて、話を聞いて、去っていく。一話ごとに完結する話なんです。

泣かせにくる回も、熱くさせる回も、ほとんどないんですけど、夏のあいだ外回りで体にためこんだ熱が、一話ごとに少しずつ冷めていく感じがして、自分にとっては、秋の入り口の儀式みたいになっています。

ここ、本当に、音がいいんです。虫の声と、水の音と、風の音が、画面の奥のほうで鳴っている。部屋の明かりを落として、一晩に一話だけ観てほしいです。


長い夜に、少しだけぞくっとしたい

暗さを、あえて楽しみたい夜に。

『雨月物語』の表紙

朗読で聴く・1776年

上田秋成『雨月物語』より「菊花の約」

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(こはぜ)読み手の声が、約束の日の夕暮れのところで、ふっと低くなったのです。ぼくは、思わず柱時計のほうを見ました。

夏の夜に、同じ『雨月物語』のなかの別の話を聴いたことを、前に会報に書きました。秋に聴くなら、この話です。

戦の世に、二人の男が出会い、兄弟の約束をします。ひとりは国へ戻らなければならなくなり、秋の、菊の節句の日に必ず帰ると言って発つ。もうひとりは、その日を待つ。

その日の夜に何が起きるかは、書かずにおきます。こわい話として知られていますが、聴き終えて残るのは、こわさよりも、約束というもののほうなのです。旧い暦の九月九日は、いまの暦でいうと、ちょうど十月ごろ。この時期に聴くと、雨戸の外の暗さが、少しだけ濃くなる気がします。


実りの秋に、おなかを空かせたい

秋は、台所がいちばんにぎやかになる季節でありました。

『土を喰らう十二ヵ月』の表紙

映画・2022年

『土を喰らう十二ヵ月』中江裕司監督

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(ぬか)観終えて最初にしたことは、乾物の棚から干ししいたけを出して、水に浸けることでありました。

信州の山の家で、ひとりで暮らす作家が主人公です。演じるのは沢田研二さん。畑で採れたもの、山で採れたものを、季節ごとに料理して食べる。それが、一年分、十二ヵ月ぶん続いていきます。原案は水上勉のエッセイで、料理は土井善晴さんが手がけています。

台所の場面が、どれもていねいです。泥のついた野菜を洗う音、鍋の湯気、すり鉢の音。わたくしはこの映画を、ひとくち目を待つような気持ちで観ていました。

秋の章だけでなく、一年を通して観るのがおすすめです。季節の巡りと、ひとりで生きることと、食べることが、ひとつの台所の中でつながっています。白いごはんが欲しくなる映画でもあります。


少しだけ、ときめきたい

日が短くなると、手紙を書きたくなる人のために。

『ユー・ガット・メール』の表紙

映画・日本公開1999年

『ユー・ガット・メール』ノーラ・エフロン監督

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(はるまき)子どもたちが寝たあと、洗濯物をたたみながら観ました。たたみ終わっても、まだ観てました。

ニューヨークで、母親から受け継いだ小さな子どもの本の店を営む女の人と、近所に大きな書店を開こうとしている会社の御曹司。現実では、店をめぐってぶつかってばかりの二人が、じつは、ネットで名前を伏せたままメールを送りあっている相手同士だった、というお話です。

いや、ほんとに、秋のニューヨークが出てくる最初のところが好きなんです。新学期の文房具を買いたくなるような空気で。メールの届く音で始まる恋なんて、いまの若い人には古いのかもしれないけど、言葉を一通ずつ待つ時間って、ちょっといいですよね。

観終わったら、誰かに長めのメッセージを一通だけ送りたくなっちゃいました。


子どもと、秋の森へ行きたい

読み聞かせの声で、秋の森を歩く一冊。

『14ひきのやまいも』の表紙

絵本・1984年

いわむらかずお『14ひきのやまいも』

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(めじろ)読み聞かせのときに、下の子が毎回、同じページで指をとめる絵本です。

おじいさんを先頭に、ねずみの大家族の十四ひきが、秋の森へ山いもを掘りに行きます。

山いもは、折らないように、そうっと、深く深く掘るんだなあ。きょうだいたちが、穴のまわりで、のぞきこんだり、土を運んだりしている。下の子が指をとめるのは、そのページです。

森の絵が、とにかく細かい。落ち葉の一枚一枚、木の実のひとつひとつまで描いてあって、あたしは子どもより先に、ページのすみっこを探してしまいます。最後は、家族みんなで、秋のごはん。読み終えると、子どもが「おなかすいた」と言います。あたしも、毎回そう思います。


この特集の使い方

(草餅)候補を出しあったとき、灯さんが「秋の作品は、みんな少し寂しいですね」と言った。そう言われてから並べなおしてみると、たしかに、八作とも、どこかにひとりの時間がある。手紙を待つ時間、約束の日を待つ時間、山の家の台所、夜明け前の帰り道。

でも、寂しいだけじゃなかった。最後には、誰かに手紙を書きたくなったり、ごはんを作りたくなったりする。うちは、それが秋の感情浴なんだと思う。

一晩にひとつずつ、冬が来る前に。場面「秋」のページには、この特集に入れなかった作品の記録も並んでいます。気持ちの辞典の「静まりたい」「寂しさに浸りたい」からも、近い作品を探せます。

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