この気持ちについて
優しくなりたいと思うのは、自分が少し尖っていると気づいたときです。言い方がきつくなった、人の話を最後まで聞けなかった、小さなことにいらだった。そういう日の終わりには、もう一度柔らかい自分を取り戻したくなります。
この気持ちの感情浴で選ぶのは、誰かに優しくされる話よりも、誰かに優しくしている人の話です。見返りを求めずに手を差し出す人物を見ていると、その手つきがこちらの手にも少しだけ移ってきます。
小川糸の小説『ツバキ文具店』は、手紙の代書を請け負う主人公が、依頼人の言いにくい気持ちを代わりに言葉にしていく物語で、人の事情に寄り添う姿勢そのものが優しさとして伝わってきます。宇仁田ゆみの漫画『うさぎドロップ』は、独身の男性が思いがけず幼い子を引き取り、戸惑いながら暮らしを変えていく様子を描きます。シェル・シルヴァスタインの絵本『おおきな木』は、与え続けることの意味を、読む年齢によって違う角度から問いかけてきます。
優しくなる感情浴は、終わったあとに誰かへ連絡をしたくなることがあります。その気持ちに素直に従うのも、感情浴の続きです。
優しくなりたいときの作品
この気持ちで記録された12作品です。しずくの数は、心が動いた大きさの目安で、作品の出来を採点したものではありません。

アナグマのいない春に、みんなが話したこと スーザン・バーレイ『わすれられないおくりもの』
読み聞かせの声が出なくなった

いや、ほんとに、こういう職場があったらいいのに 『夜明けのすべて』
洗濯物をたたむ手が止まった

将棋のルールを知らないまま、五巻で本を伏せた 羽海野チカ『3月のライオン』
五巻で本を伏せた

四十年ぶんの、水車の音 津村記久子『水車小屋のネネ』
閉じたあと、しばらく膝に置いていた

指文字で、子どもの名前を三回なぞった夜 ドラマ『silent』
手の動きを何度も巻き戻した

音が消えた数十秒に、家族の席へ座らされる 『コーダ あいのうた』
洗いものの手が止まりました

雪の日の指先は、声より近い 森下suu『ゆびさきと恋々』
自分の指を見てしまう

梅酒で酔った夜から、四人目の妹になる 吉田秋生『海街diary』
梅の実の色がしみた

読み聞かせの途中で、声がつまってしまった絵本 『ないた赤おに』
読む声がつまった

大きなたまごは、はこべなかった 中川李枝子・大村百合子『ぐりとぐら』
あたしもおなかがすいた

『きのう何食べた?』の台所には、段取りという名の気づかいがある
買い物袋を詰め直した

夕方の畦道で、名前を返す少年 『夏目友人帳』
夕方の色が残った
近くにある気持ち
優しくなりたい気持ちのとなりにある言葉です。少し違う角度から浸かりたいときに。