この気持ちについて
ぞくっとしたい、というのは不思議な欲求です。怖いものは本来避けたいはずなのに、安全な場所にいると分かっていると、人はあえて背筋の冷える体験を求めます。夏の夜に怪談を聞きたくなるのも、同じ気持ちから来ているのでしょう。
この気持ちの感情浴は、緊張と解放の繰り返しです。何かが起きそうな静けさで息を詰め、正体が見えた瞬間に体がこわばり、作品が終わったところで一気に力が抜ける。その落差が、日常のだるさを吹き飛ばしてくれます。
鈴木光司の小説『リング』は、ありふれた道具が恐怖の入口になるという発想で、読後しばらく身の回りのものが違って見えます。伊藤潤二の漫画『うずまき』は、ある形にとりつかれていく町を描き、じわじわと理屈の外へ連れ出していく怖さがあります。アルフレッド・ヒッチコック監督の映画『サイコ』は、見せないことで怖がらせる演出の手本として、今も新しく観る人をぞくっとさせています。
怖さへの強さは人によって大きく違います。ラルムの記録では、この気持ちの作品に、どのくらい怖いかの目安も書き添えるようにしています。
ぞくっとしたいときの作品
この気持ちで記録された8作品です。しずくの数は、心が動いた大きさの目安で、作品の出来を採点したものではありません。

百七十五分、瞬きの回数を数えそこねた 李相日監督『国宝』
席を立つのが一番最後になった

雨戸を閉めて、耳で読む怪談 小泉八雲『怪談』(朗読で聴く)
耳の奥がひやりとした

たった一行で、島の見取り図が書き換わる 綾辻行人『十角館の殺人』
最初の頁に戻った

湯屋の配管を、ずっと目で追っていた 宮崎駿監督『千と千尋の神隠し』
電車の場面で肩が下りた

九十五分のうち、怖いのは何も映っていない時間だ 映画『リング』
背中が冷えた

草むらの向こうから、友の声がする 中島敦『山月記』(朗読で聴く)
夜明けの場面で息をのんだ

障子の向こうから聞こえてくるような、十の夢 夏目漱石『夢十夜』を耳で読む
耳の奥がひやりとしました

地下の方舟で、誰を残すのか 夕木春央『方舟』
閉じてから寒気が来た
この気持ちになれる場面
ぞくっとしたい作品が、どんな時によく浸かられているか。場面ごとに、作品と特集を束ねています。
近くにある気持ち
ぞくっとしたい気持ちのとなりにある言葉です。少し違う角度から浸かりたいときに。