この気持ちについて
笑いたい日は、笑える出来事が足りていない日です。忙しさや緊張が続くと、口角が上がる場面そのものが一日の中から消えていきます。声を出して笑うことには、泣くのと同じくらい、体の中の空気を入れ替える働きがあります。
感情浴の「笑いたい」は、にやりとする笑いより、思わず吹き出してしまう笑いを目指します。ひとりで笑うのは照れくさいという人もいますが、誰も見ていない場所だからこそ、遠慮なく崩れることができます。
笑いは好みがはっきり分かれる気持ちです。会話のずれで笑わせるもの、状況の積み重ねで笑わせるもの、書き手の目線そのものが可笑しいもの。さくらももこのエッセイ『もものかんづめ』は、何気ない出来事が書き手の目を通るだけで可笑しくなる例です。中村光の漫画『聖☆おにいさん』は、突飛な設定を小さな日常の場面で転がしていきます。上田慎一郎監督の映画『カメラを止めるな!』は、前半を辛抱して観た人ほど後半で笑いが止まらなくなる作品です。自分がどの笑いに弱いかを知っておくと、この気持ちの感情浴はぐっと当たりやすくなります。
笑いたいときの作品
この気持ちで記録された16作品です。しずくの数は、心が動いた大きさの目安で、作品の出来を採点したものではありません。

野田サトル『ゴールデンカムイ』 雪の森から、とんとんと音がする
汁をすする音まで聞こえた

段ボール箱の中から聞こえたギター 『ぼっち・ざ・ろっく!』
箱の中の音で座り直した

放課後の居間に、クラスでいちばん目立たない子がいた HERO・萩原ダイスケ『ホリミヤ』
同じ巻を二回読んでた

迷宮の底で、土鍋の湯気を見ていた 九井諒子『ダンジョン飯』
夜中に土鍋を出した

別れた二人が、同じ食卓で言い合う冬 坂元裕二脚本『最高の離婚』
笑った回数より、黙った時間のほうが長い

語り手の声が、ずっと少しだけ笑っている 宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』
声に出して読みたくなった
木に引っかかった瞬間、勝負はついていた 『愛の不時着』
来週まで待てなかった

元夫が三人、みんなちょっとずつ好きになっちゃう 『大豆田とわ子と三人の元夫』
最終回のあと、台所で立ったまま

唐揚げのレモン一個で、四人のことが好きになる 坂元裕二脚本『カルテット』
揚げものの手が止まった

豚肉いためと豚汁を、ひとりで頼んでしまう昼 久住昌之・谷口ジロー『孤独のグルメ』
お代わりの前で迷った

毒見役の子が、毒の話のときだけ目を輝かせる 『薬屋のひとりごと』第2期
通学の電車で三回くらい笑った

桃の缶詰を開ける前に、もう笑っていた さくらももこ『もものかんづめ』
夜食の箸が止まった

三十七分、カメラは止まらない 『カメラを止めるな!』
部品が噛み合う音がした

段ボールのロボットに、大人まで振りまわされる 『よつばと!』
声を出して笑った

富士山より高い雪原で、ラーメンが切れる 映画『南極料理人』
腹が鳴った

洗濯物をたたみながら、にやけてしまうドラマ 『逃げるは恥だが役に立つ』
頬がずっとゆるんでた
この気持ちになれる場面
笑いたい作品が、どんな時によく浸かられているか。場面ごとに、作品と特集を束ねています。
近くにある気持ち
笑いたい気持ちのとなりにある言葉です。少し違う角度から浸かりたいときに。