ラルム / 作品の記録

2021.03.28媒体 ドラマ記録 はるまき

唐揚げのレモン一個で、四人のことが好きになる 坂元裕二脚本『カルテット』

揚げものの手が止まった
『カルテット』の表紙
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子どもたちが寝たあと、台所の電気だけつけて、録画の一覧をさかのぼりました。四年前の冬に予約したまま、一話も観ていなかったドラマがあったんです。

放送のころ、上の子はまだ一歳にもなっていなくて、夜中に何度も起きていました。録画だけして、そのまま。この冬、ようやく第1話を再生しました。一晩に一話ずつ、と決めて、ちょうど十晩で最終話まで行きました。

唐揚げの回

軽井沢の別荘で、四人の演奏家が一緒に暮らしはじめる話です。

ヴァイオリンの真紀さん、チェロのすずめちゃん、ヴィオラの家森さん、もう一人のヴァイオリンの別府くん。東京のカラオケボックスで、たまたま出会った四人、ということになっています。三十代の、音楽で食べていけていない大人たち。弦楽四重奏を組んで、週末は近くのレストランで演奏をする。

第1話で、四人が食卓を囲む場面があるんですよね。大皿に唐揚げが盛ってあって、そばにレモンが添えてある。誰かが何も言わずに、全部の唐揚げにレモンをしぼっちゃう。そこから、かける派とかけない派の話が止まらなくなる。

いや、ほんとに、これだけの場面なんです。事件も何もない。でも、はるまきはここで、揚げもののことを考えて、手が止まっちゃいました。はるまきの家でも、大皿の唐揚げには誰がいつレモンをかけるのか、ちゃんと決めたことがない。たぶん、家族の中にも、言わないまま我慢してる人がいる。

この唐揚げの回で、四人のことが一気に好きになりました。それぞれ、ちょっと面倒くさい。こだわりが強くて、人の話を聞いているようで聞いていない。でも、そのこだわりを、ほかの三人が笑いながら受け止めてくれる。

演奏の場面も好きでした。四人が弓を構えて、音が重なる。はるまきは楽器のことは何も分からないんですけど、四人の顔を見ていると、今日はうまくいっている日なのか、そうでない日なのか、なんとなく分かるんです。ばらばらの人たちが、同じ曲の同じところで、一瞬だけそろう。家族の朝ごはんに、たまたま全員がそろった日の感じに、ちょっと似ています。

片思いが、何本も

観ていくと、四人の出会いは、そんなに「たまたま」じゃなかったことが分かってきます。それぞれに、隠していることがある。

そこから先の、誰が何を隠していたのかは、書かないでおきますね。後半は、ぐっとサスペンスっぽくなって、はるまきは寝る前に一話だけ、の約束を二回破りそうになりました。

それよりも、はるまきが胸にきたのは、片思いのほうでした。四人の中に、好きな気持ちの矢印が何本もあって、それがどれも、ちゃんと相手に届いていないんです。届いていないのに、みんな何でもない顔をして、同じ食卓でごはんを食べる。

いや、ほんとに、大人の片思いって、こういうものなのかもしれないですよね。好きなことを伝えるより、同じ家で明日も一緒に演奏することのほうを選ぶ。煮物を一晩寝かせるみたいに、言いたいことを寝かせて、そのまま味にしちゃう人たち。

笑える回もたくさんあります。四人の会話が、とにかく可笑しい。どうでもいい話で、ずっと言い合っている。その可笑しさの下に、切ない話がずっと沈んでいて、はるまきは毎晩、笑ったあとに少しだけ黙りました。

浴びてほしい人と、いつ

  • 仕事と暮らしで、自分のこだわりを飲みこんでばかりいる人
  • 好きな人に好きと言わないまま、そばにいることを選んだことがある人
  • 冬の夜に、少しだけ大人のドラマが観たい人

冬の、疲れた日の夜に一話ずつ。唐揚げの回だけは、おなかがいっぱいのときに観るのがおすすめです。空腹だと、夜中に鶏肉を解凍したくなっちゃいます。

項目 内容
作品名 カルテット
放送 2017年1月〜3月(TBS・火曜ドラマ)
話数 全10話
脚本 坂元裕二
出演 松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平 ほか
主題歌 Doughnuts Hole「おとなの掟」

表紙は、脚本を本にしたほうの一冊目です。観終わってから、会話をもう一回ゆっくり読みたくて、つい。

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