結論から言う。この作品は、第1話で女がパラグライダーごと木に引っかかった瞬間に、小生の負けが決まっていたのである。
韓国のドラマである。全十六話。一話がとにかく長い。一時間を軽く超える回がほとんどで、長いものは一時間半を超える。最初は身構えた。一気に観るには重すぎる、と。
杞憂であった。三日で観た。
筋の骨組み
ソウルで自分の会社を率いる女、ユン・セリが、新しい商品の試しにパラグライダーで空を飛ぶ。そこへ突風が来る。流されて、流されて、降りた先は、軍事境界線の向こう側。北の国の森の中の、一本の木の上である。
その下を見回りで通りかかったのが、北の軍の中隊長、リ・ジョンヒョク。女を見上げる無表情の男と、木の上で強がる女。ここからの十六話は、つまりこの二人が、国境という一番越えられないものを挟んで、少しずつ近づいていく話なのだ。
設定だけ聞くと、ずいぶん無茶である。小生も最初はそう思った。だが脚本が、その無茶を笑いで包むのがうまい。
効いてくる場面
まず、ジョンヒョクの部下の兵士たち。四人いる。南のドラマをこっそり観ているのが一人、口が悪いのが一人、いちばん若くて素直なのが一人、無口な二枚目が一人。彼らとセリのやりとりが、毎回ぴりっと効く。
それから、村の奥さんたち。軍人の家族が暮らす小さな村で、よそ者のセリを怪しみ、噂し、それでもいつのまにか受け入れていく。噂話の輪の中に、気づけばセリが混ざって一緒に手を動かしている場面は、辛いものを食べたあとの冷たい水のように、しみた。
そして、ときめきの話である。
ジョンヒョクという男は、ほとんど笑わない。口数も少ない。その代わり、何でも手でやる。豆を挽いてコーヒーを淹れる。壊れたものを直す。はぐれた相手を、人ごみの中で必ず見つける。第4話あたりの市場の場面で、小生は画面の前で思わず正座した。何が起きたかは書かない。ただ、言葉で好きだと言わない人の「好き」が、あれほど効くとは知らなかったのだ。
笑いの下にあるもの
この作品は、全体としては明るい。笑える回のほうが多い。だが、二人のあいだには最初から最後まで、国境という壁がある。どれだけ近づいても、いずれ別れなければならないかもしれない。その予感が、甘さのすぐ下に、あとから効いてくる辛味のように沈んでいる。
もうひとつ、この作品の脚本がうまいのは、脇の人物にもそれぞれの恋を持たせているところである。ジョンヒョクの婚約者として現れる女。南でしくじって、北に身をひそめている訳ありの男。二人の話は、本筋の甘さとは別の、少し苦い味を持っている。小生は、この二人の回で、辛い麺に酢を垂らしたときのように、味がきゅっと締まるのを感じた。主役の二人だけを追っていたら、たぶん途中で胸やけしていたのだ。
だから、笑っているのに、ときどき胸が詰まる。結末には触れない。ただ、最終話を前に、小生はまる一日、再生ボタンを押せなかったことだけは書いておく。
浴びてほしい人
- ときめきたいが、甘いだけの話ではもう物足りない人
- 眠れない夜に、長いものに身を沈めたい人
- 韓国のドラマを観たことがない人。入口にちょうどいい
いつ浴びるか
眠れない夜に、第1話を。木に引っかかるところまでで十分である。そこで止められる人は、たぶんこの作品に向いていない。止められなかった人は、ひとりの週末をまるごと差し出す覚悟を。
作品データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作品名 | 愛の不時着 |
| 放送 | 2019年12月〜2020年2月(韓国) |
| 話数 | 全16話 |
| 脚本 | パク・ジウン |
| 出演 | ヒョンビン、ソン・イェジン ほか |
近い気持ち
三月の感情浴会(第47回)は、小生が初めて進行を務めた回である。記録ははるまきがまとめてくれた。会の最後に、全員で好きな回を一つずつ挙げたら、見事にばらばらだった。十六話もあると、そうなる。来週まで待てない気持ちで観た人ほど、挙げる回が後ろのほうになるのが面白かった。