カーソルが「たたかう」の上で点滅していた。右へ三つずらして、「みのがす」で決定した。それを、最後までやった。
地下に落ちる
人間の子どもが、山の穴から地下に落ちる。地下には、モンスターたちが暮らしている。ずっと昔に人間との争いに負けて、地上から閉め出されたらしい。
子どもは、地上へ帰る道を探して、地下を歩いていく。
見た目は、昔のゲームみたいな小さな画面だ。でも、戦いのところだけが違う。モンスターに会うと、四つの選択肢が出る。「たたかう」「こうどう」「アイテム」「みのがす」。
相手の攻撃は、箱の中を飛んでくる弾みたいなもので、自分の心臓をあらわす小さなハートを動かしてよける。よけながら、相手に話しかけたり、なでたり、ほめたりする。うまくいくと、相手は戦う気をなくす。そこで「みのがす」。
誰も倒さなくても、先へ進める。それを最初の数分で知って、俺は、じゃあ一回も倒さずに行ってみるか、と決めた。
名前のせいで
最初に長く一緒にいるのは、トリエルという、ヤギのような姿のモンスターだ。
子どもの面倒を、母親みたいに見てくれる。手を引いて道を教えてくれる。家に連れていって、パイを焼いてくれる。
会でこのゲームの話をしたら、灯さんに「ヤギさんが出てくるんですね」と言われた。凪さんは笑いすぎて、マイクを切っていた。俺の名前は、このゲームとはなんの関係もない。でも、そのあとトリエルの場面を進めるたびに、なんだか照れくさかった。
手が止まった
驚いたことは、たくさんある。書けるのは、ひとつだけだ。
このゲームは、プレイヤーがしたことを、覚えている。
ゲームの中の誰かが、セーブとロードのことを知っているような口ぶりで話しかけてくる場面がある。やり直したはずのことを、やり直したと分かっている。画面の向こうから、まっすぐこっちを見られた気がした。
ここで一回、コントローラーを置いた。
ゲームの中で何をしても、ロードすれば戻れる。ずっとそう思って遊んできた。戻れると思っているから、平気で崖から飛び降りるし、平気で村人に話しかけまくる。それが、急に、戻れない山道を歩いている感じに変わった。後ろの道が、崩れていく音がした。
それからは、一回の選択が、少し重くなった。
笑える
重いだけのゲームじゃない。むしろ、ほとんどの時間、笑っていた。
雪の積もった森で、骸骨の兄弟に出会う。弟のほうは、人間をつかまえて手柄を立てたくてしかたがない。でも、作る罠はどれも抜けだらけで、得意料理はスパゲッティで、とにかく張りきっている。兄のほうは、いつも眠そうで、くだらない冗談ばかり言っている。
二人のやりとりで、何回も声を出して笑った。笑っているうちに、この二人を倒すなんて考えられなくなっていく。
戦いの場面でも、相手ごとに「こうどう」の中身が全部違う。冗談を聞いてやったり、ダンスにつきあったり、ただ黙って隣にいたりする。そのたびに、相手の事情が、少しずつ見えてくる。
優しくなる、というより
結末には触れない。
最後まで「たたかう」を押さずに行けたのは、俺が優しいからじゃない。会う相手が、みんな、倒したくない理由を持っていたからだ。遠くの山を目指して歩いていたつもりが、途中から、道ばたの一人ひとりの顔ばかり見ていた。
クリアしたあと、日曜の夜の部屋で、しばらく画面を眺めていた。もう一周、別のやり方で遊ぶこともできる。でも、まだ、やっていない。
誰に
- ゲームで、ロードすればいいと思って選んできた人
- 昔の小さな画面のゲームが好きな人。見た目で判断しないでほしい
- 戦わずにすむなら、そのほうがいい人
いつ
ひとりの週末に。全部で十時間くらい。眠れない夜に少しずつ進めるのもいい。ただ、手が止まる場面に夜中に当たると、そのあと眠れなくなる。俺がそうだった。
作品データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作品名 | UNDERTALE |
| 作った人 | Toby Fox |
| 発売 | 2015年9月(パソコン) |
| 日本語版 | 2017年8月(PlayStation 4・PlayStation Vita)。のちに Nintendo Switch でも |
会で話したのは、毎月の会のあとの雑談の時間だ。来年、俺がゲームの回を進行するなら、候補の一つにする。ただ、何も知らないまま遊んでほしいゲームなので、話せることが少なすぎる。そこが悩みだ。
