ピンクのジャージの子が、放課後の公園のブランコにひとりで座っていて、背中のギターケースだけがゆっくり揺れている、第1話で自分がいちばん長く見ていたのは、実はライブの場面じゃなくて、そのブランコでした。
主人公の後藤ひとりは、人と話すのがどうしても苦手な高校一年生で、中学の三年間、押し入れの中でひとりギターを弾き続けて、顔を出さずに演奏の動画を上げてきた子なんです。ギターを背負って学校へ行けば誰かが話しかけてくれるかもしれない、と思って毎日持っていくのに、誰にも声をかけられないまま放課後になって、公園にたどり着く。そこへ、ドラムを叩いている伊地知虹夏が通りかかって、今日ライブなのにギターの子がいなくなった、と声をかけてくる。
先週の会(第33回)では、みんなで第8話を観ました。あの台風の夜のライブの話は、オトさんの記録と、暮れの大賞の選評に書いたとおりなので、ここでは第1話から順番に、自分が何を受け取ったのかを書いておきたいんです。
段ボール箱の中のギター
虹夏に連れられて小さなライブハウスに着いたひとりは、人前に立つことが怖くて、どうしても舞台に出られない。そこで彼女が選ぶのが、果物の段ボール箱をかぶったまま、箱の中から弾く、というやり方なんです。
最初に観たとき、自分は声を出して笑いました。この作品は、ひとりの頭の中が混乱するたびに、場面ごとに絵のタッチがまるごと変わってしまうので、とにかくよく笑う。でも、箱の中からギターの音がちゃんと鳴りはじめたところで、笑いながら、なぜか拳を握っていたんです。
ここ、本当に、何回観ても同じところで座り直してしまいます。顔は隠したままでいい、でも音だけは出す。その中途半端さが、自分にはとても正直な勇気に見えました。自分は仕事で外回りが多くて、初めての会社を訪ねる前には、車の中で一回、深呼吸をしてからでないと降りられない。箱をかぶりたい朝は、毎週あるんです。
そこから話数が進むにつれて、ベースの山田リョウや、一度逃げてしまったギターの子が加わって、四人のバンドになっていきます。ひとりは相変わらず人と目を合わせられないし、アルバイトの初日は泣きそうになっているし、劇的に変わったりはしない。それでも、押し入れの中で鳴っていた音が、少しずつ部屋の外へ出ていく。その出ていき方の遅さが、この作品のいちばんいいところだと思っています。
会で灯さんが、元気が出るというより、元気を出さなくていいと言われている気がした、と話していて、自分はそれを聞いてから、第1話のブランコの見え方が変わりました。あのブランコは、がんばれなかった一日の終わりに座る場所で、それでも誰かが通りかかることがある。自分にとってのこの作品の元気は、たぶんそういう形をしています。
最終話のことは書きません。ただ、第1話で箱の中にいた子が、最後の話でどこに立っているかは、全12話を順番に観てきた人にだけ分かる大きさで描かれていて、自分はそこで二回、再生を止めました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作品名 | ぼっち・ざ・ろっく!(テレビアニメ) |
| 原作 | はまじあきの漫画(芳文社「まんがタイムきららMAX」で2018年から連載) |
| 監督 | 斎藤圭一郎 |
| 制作 | CloverWorks |
| 放送 | 2022年10月〜12月 |
| 話数 | 全12話 |
近い気持ち
冬の、仕事で疲れた夜に一話ずつがいちばんです。一話は三十分に満たないので、帰ってきてカップ麺のお湯を沸かしているあいだに、ちょうど始められます。
