ラルム / 作品の記録

2020.07.19媒体 漫画記録 凪

段ボールのロボットに、大人まで振りまわされる 『よつばと!』

声を出して笑った
『よつばと!』の表紙
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段ボールでできたロボットが、夏の住宅街をぎこちなく歩いてくる場面から話させてください。

中に入っているのは、となりの家の恵那の友だちの、みうらなんです。恵那と二人で作った段ボールのロボットをみうらがかぶっていたら、よつばがそれを本物だと信じこんでしまって、二人はもう引っこみがつかなくなる。ダンボーと名づけられたそのロボットについて、その場しのぎで口にした設定を、よつばは一ミリも疑わないまま、目を輝かせてどこまでもついて回るんです。中にいる子の汗と、外にいるよつばの全力の期待が、コマが進むほどどんどん開いていく。自分はこの話を最初、帰りの電車で読んでいて、肩が震えるのを必死にこらえました。家でもう一度読んだら、今度はふつうに声が出ました。

『よつばと!』は、五歳の女の子よつばが、とーちゃんと二人で知らない町へ引っ越してくるところから始まる漫画です。事件らしい事件は、ほとんど起きません。一話はだいたい一日か、一日のうちの数時間のことで、よつばが何かに初めて出会って、全身で驚いたり、怒ったり、喜んだりする。その繰り返しなんです。

それなのに、ここ、本当に、笑うところが一回ごとにずれていくんですよね。よつばのとんちんかんな思いこみで笑うこともあるし、それを真顔で受け流すとーちゃんの間で笑うこともあるし、となりの綾瀬家の三人の娘さんたちが、よつばの勢いに少しずつ巻きこまれていく様子で笑うこともある。同じページの中で、笑う理由が二つも三つも重なっていることがあって、何回読んでも、前とは別のコマで吹き出してしまうんです。

台風の日の話も好きです。雨と風が強くなってきたのに、よつばは大喜びで外へ飛び出して、嵐そのものと遊ぼうとする。大人から見れば止めなきゃいけない場面なのに、よつばの目線で読むと、あれは一年に何度もない祭りなんですよね。読んでいるこっちまで、小学校のころ、雨の日の校庭を見て妙に浮かれていた、あの落ち着かない感じが背中のあたりに戻ってきます。

自分はふだん、泣ける話と熱くなれる話ばかり探しているほうなので、この作品を毎月の会の候補に出したときは、正直ちょっと迷いました。でも、会の日が近づくにつれて、今はこれだと思ったんです。外に出られない日が続いていて、みんなの声が画面越しでも分かるくらい、少しずつ疲れていたので。

しずくを三つにしたのは、心が動いた深さでいえば、声が出なくなるほど泣いた作品にはかなわないからです。そのかわり、すり減った日の効き方でいえば、たぶん五つでも足りない。そういう種類の作品なんだと思います。

誰に浴びてほしいか

仕事や家のことで手いっぱいで、最後に声を出して笑ったのがいつだったか思い出せない人に。子どもがいる人は、たぶん別の場所で笑うし、別の場所で少し胸が痛くなると思います。子どもがいない人も、かつて自分がよつばだったころのことを、どこかで思い出すはずです。

漫画を久しぶりに読む人にもすすめたいです。コマの運びがとても素直なので、読み方を思い出す練習にもなります。

いつ浴びるか

疲れて帰ってきた夜に一話だけ、が向いています。一話が短いので、湯船につかる前の十分でも読めます。続けたくなったら、休日の朝にまとめて読むのがいいと思います。窓を開けて、外の音が少し入るくらいがちょうどいい。夏の話が多いので、夏に読むと、画面の外の蝉の声と重なります。

作品データ

項目 内容
作品名 よつばと!
作者 あずまきよひこ
媒体 漫画
連載 月刊コミック電撃大王(2003年〜)
巻数 既刊14巻(2020年7月の時点)

近い気持ち

六月の感情浴会(第2回)で、自分が候補に出して取り上げた作品です。会の記録は栞がまとめています。画面の向こうで、灯がめずらしく笑い声を抑えきれていなかったのを覚えています。

(記録:凪)

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