この気持ちについて
背中を押されたいときには、たいてい、もう答えは自分の中にあります。やってみたいことがある、けれど一歩が出ない。誰かにそれでいいと言ってほしい。そういう迷いの手前にいるとき、作品が最後のひと押しになることがあります。
この気持ちの感情浴で大切なのは、作品の中の人物も迷っていることです。最初から迷わず進める人の話ではなく、失敗し、揺らぎ、それでも選び直して進む人の話に、自分の迷いを重ねることができます。
宮崎駿監督の映画『魔女の宅急便』は、見知らぬ街で独り立ちしようとする少女が、一度は自分の力を見失い、それでも取り戻していく物語です。山口つばさの漫画『ブルーピリオド』は、何となく過ごしていた高校生が絵に出会い、遅れて始めた自分を引き受けて美大を目指します。三浦しをんの小説『舟を編む』は、辞書づくりという気の遠くなる仕事に人生をかける人たちを描き、ひとつのことを続ける勇気をくれます。
押された背中で、実際に歩き出すのは自分です。浴び終えたら、決めていたことを小さくひとつだけ始めてみてください。
背中を押されたいときの作品
この気持ちで記録された17作品です。しずくの数は、心が動いた大きさの目安で、作品の出来を採点したものではありません。

遅すぎるなんて、誰が決めたんだろう つるまいかだ『メダリスト』
見開きのたびに息を止めた

片思いの置いていき方を、美大の片すみで知った 羽海野チカ『ハチミツとクローバー』
自転車のうしろ姿で、めくる手が止まった

雨の田んぼ道で跳ねる、あのコマのこと 藤本タツキ『ルックバック』
見開きで本を閉じた

音が消えた数十秒に、家族の席へ座らされる 『コーダ あいのうた』
洗いものの手が止まりました

頁の上で、ピアノが鳴っていました 恩田陸『蜜蜂と遠雷』
頁をめくる指がふるえた

春が来る前に、泣く準備をしておく漫画 新川直司『四月は君の嘘』
最終巻は三回に分けて読んだ

半年かけて、あんぱんを一個食べきった 連続テレビ小説『あんぱん』
最終週は朝から効いた

語り手の声が、ずっと少しだけ笑っている 宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』
声に出して読みたくなった

『BLUE GIANT』の河原には、雪が降っていた
指が勝手に動いた

最終巻が出る前の秋に 末次由紀『ちはやふる』
一つは十二月まで取っておく

卵ひとつの重さを、十五巻かけて量りなおす 荒川弘『銀の匙 Silver Spoon』
卵を割る前に手が止まった

『MIU404』 メロンパン号に乗ったつもりで、最終話まで走っちゃいました
翌朝まで胸が熱かった

明け方の渋谷が青く見えた日から 『ブルーピリオド』
背中が熱くなった

碁のルールを知らないまま、白と黒の石に背中を熱くされた 『ヒカルの碁』
一局も分からないのに汗をかいた

走らない人が読んでも、夜道が少し長くなる 村上春樹『走ることについて語るときに僕の語ること』
散歩の道が少し伸びた

半年ぶんの朝の、最初の一分 米津玄師「さよーならまたいつか!」
曲のあとの一呼吸が残りました

夜勤明けに、小説でできた音を YOASOBI『THE BOOK』
足取りが少し速くなった
この気持ちになれる場面
背中を押されたい作品が、どんな時によく浸かられているか。場面ごとに、作品と特集を束ねています。
近くにある気持ち
背中を押されたい気持ちのとなりにある言葉です。少し違う角度から浸かりたいときに。