曲が終わって、その日の物語が始まるまでの、ほんの一呼吸のあいだ。部屋の中がふっと静かになる、その短い時間のことを、いまも覚えています。
この春から秋までの半年、私はほとんど毎日、この曲を聴いていました。朝の連続テレビ小説『虎に翼』の主題歌です。録画をして、夜に観ることのほうが多かったのですが、それでも毎回、冒頭の一分あまりはとばさずに聴いていました。
最初は、なじめませんでした
正直に書きます。四月のはじめ、最初にこの曲を聴いたとき、私は少し戸惑いました。
明るい曲です。けれど、ただ明るいだけではない。節回しのところどころに、古い歌の影のようなものがあって、どこか懐かしいのに、どこにも着地しない。聴き慣れた流行りの歌の形から、少しだけずれている気がしました。朝に聴くには、少し落ち着かない。そう思ったのを覚えています。
それが、二週目、三週目と続くうちに、変わっていきました。
聴く順番のこと
ドラマは、日本で最初に女性の弁護士になった人たちのひとりをもとにした話です。主人公の寅子は、まだ女性が弁護士になれなかった時代に、大学で法律を学びはじめます。周りの目は冷たく、道は細く、何度も壁にぶつかる。
その日の物語の前に、毎回この曲が流れます。すると、曲の聴こえ方が、ドラマの進み方と一緒に少しずつ変わっていくのです。寅子がつらい目にあった次の回は、同じ曲が、少しだけ強がっているように聴こえる。寅子が一歩前に出た次の回は、背中を押してくれる曲に聴こえる。
曲そのものは、毎回同じです。変わっているのは、聴いている私の側の順番のほうでした。前の日に観たもの、その日の自分の気分、窓の外の天気。そういうものが、曲の上に薄い水の層のように重なって、毎回ちがう色ににじんでいく。
同じ一曲を、こんなに長いあいだ、こんなに決まった時間に聴き続けたのは、初めてのことだった気がします。
題名のこと
題名の最後に、感嘆符がついています。さよならなのに、びっくりマークがついている。
私はそれが、最初は少し不思議でした。けれど、ドラマが最終回に近づくころには、分かるような気がしていました。別れを、しめっぽくしないための、その記号なのではないかと。また会えるかどうかは分からない。それでも、明るく手を振る。そういう別れ方があるのだと思います。
しずくのこと
しずくは二つにしました。
一度だけ聴いて、大きく心が動く曲ではありませんでした。私にとってこの曲の良さは、半年という長さの中で、少しずつ積もっていったものです。最終回の翌朝、もうこの曲を聴く理由がないことに気づいて、少しだけさびしくなりました。そのさびしさの小ささも含めて、二つです。
浴びてほしい人
- 新しい生活を始めたばかりで、毎朝、自分を奮い立たせている人
- 通勤や通学の移動中に、短い曲で気持ちを切り替えたい人
- ドラマを観ていた人。曲だけ聴くと、きっと場面がよみがえります
浴びる時間
新しい生活が始まった月の、朝に。家を出る前か、電車に乗ってすぐに。一日一回、決まった時間に聴くのがいいと思います。一週間ほど続けると、曲の聴こえ方の変化がわかってくる気がします。
作品データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 曲名 | さよーならまたいつか! |
| 歌・作詞・作曲 | 米津玄師 |
| 発表 | 2024年4月(連続テレビ小説『虎に翼』の主題歌として) |
近い気持ち
この曲は、会では取り上げていません。今年の十二月のしずく大賞に向けて、音楽部門の候補を話し合っているところです。私はまだ、どれに票を入れるか決めていません。
