ラルム / 作品の記録

2026.10.20媒体 漫画記録 草餅

最終巻を一年寝かせてから、やっとお暇を終えた コナリミサト『凪のお暇』

一年ぶんの深呼吸
『凪のお暇』の表紙
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くるくるの髪の女の人が、ひとりで、すこし猫背のまま歩いていく。

この漫画のことを考えると、うちの頭にはいつもそういう絵が浮かぶ。どの巻のどのコマ、というより、ぜんぶの巻を重ねて透かしたら、たぶんそういう一コマになる。

去年の初夏に最終巻が出た。うちは、それを買ったまま、一年以上、本棚に立てておいた。

結末だけ先に知ってしまうのが、昔から苦手なんだ。でもこの本の場合は、少し違った。知りたくない、じゃなくて、終わってほしくなかった。

この秋の連休に、やっと開いた。

一話ずつ読んでいたころ

主人公の大島凪は、二十八歳の会社員。まわりの空気を読みすぎて、言いたいことを飲みこんで、飲みこんで、ある日とうとう息ができなくなる。そこで凪は、仕事も、恋人も、住んでいた部屋も手放して、郊外の古いアパートに引っ越す。まっすぐに伸ばしていた髪も、もう伸ばさない。

アパートには、変な人たちがいる。隣の部屋の、人との距離がやたら近いゴンさん。同じアパートの、静かで品のいいおばあさんの緑さん。近所の小学生のうららちゃんと、そのお母さん。凪は、この人たちと少しずつ話すようになる。お金はないけど、時間はある。

おととしの初夏、仕事で疲れた日の特集に、うちはこの漫画を入れた。帰ってきた夜に一話ずつ読む、と書いた。会社に入って最初の年で、毎日くたくただったころ。凪がアパートで小さく息を吸うたびに、うちも一緒に吸っていた。

あのころは、凪がうらやましかった。ぜんぶ手放して、休める人。

うちが好きなのは、何も起きない一日のコマ。公園でぼんやりしたり、安い材料で晩ごはんを工夫したり、隣の人と立ち話をしたり。前の凪なら、そんな一日を無駄だと思ったはず。お暇のあいだの凪は、それを一日として数えていい、と少しずつ覚えていく。読んでいるうちの肩も、コマとコマのあいだで、少しずつ下がっていった。

でも、読み進めるうちに分かってきた。凪のお暇は、休みじゃないんだ。空気を読まない練習の時間なんだ。別れた恋人の慎二が、ときどきアパートにやってくる。凪は、そのたびにまた空気を読みそうになる。前の自分に戻りそうになる。……それを、何回も、何回も、やり直す。

元恋人の慎二のことも、途中からは嫌いになれなくなった。いちばん空気を読んでいたのは、もしかしたらこの人だったのかもしれない。

最終巻のこと

最終巻の中身は書かない。

ただ、読み終えて、うちは本を閉じたまま、窓を開けた。十月の風で、夕焼け色の雲がゆっくり流れていた。

十二巻ぶんのお暇を、うちは二年かけて一話ずつ追いかけて、最後の一冊だけは一晩で読んだ。凪がどこにたどり着くのかは、自分の目で確かめてほしい。うちに残ったのは、本を閉じたあとも、凪の深呼吸が胸のなかでまだ続いている感じだった。

一年、最終巻を寝かせておいてよかったと思う。会社に入って三年目の秋に読んだから、分かったことがある気がする。

浴びてほしいのは、職場で、今日も言いたいことを一つ飲みこんだ人。何かを手放したいのに、手放したら自分がなくなりそうでこわい人。

一巻ずつ、ひとりの週末に。一気に読むと、凪の深呼吸のリズムが速くなりすぎる。

項目 内容
作品名 凪のお暇
作者 コナリミサト
連載 秋田書店「エレガンスイブ」(2016年から)
巻数 全12巻(最終巻は2025年6月)
ドラマ 2019年にテレビドラマが放送

近い気持ち

ちなみに、うちの会の凪さんは、この漫画を読んでいないらしい。十一月の会の相談のついでに、それとなくすすめておいた。

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