結論から言う。今週の小生を月曜から金曜まで立たせていたのは、十三年前の日曜劇場である。
先週、仕事でひとつ、理不尽な目にあった。詳しくは書かない。書くと長くなる。その晩、帰りの電車で、なぜかこのドラマの第1話を思い出した。家に着いて、上着を脱ぐより先に再生していた。
銀行の中の、ひとりの融資課長
主人公の半沢直樹は、大きな銀行の大阪の支店で、融資の課長をしている。
ある会社に、五億円の融資をする。支店長の強い押しで、急いで決めた融資である。ところがその会社が、すぐに潰れる。お金は戻らない。そして支店長は、責任を半沢ひとりに押しつけにかかるのだ。
半沢は、黙って頭を下げる男ではない。五億円を自分で取り戻す、と言い切る。言い切ったからには、やるしかない。
ドラマは前半と後半の二部に分かれている。前半はこの大阪の支店の話、後半は東京の本部に移ってからの話だ。原作は池井戸潤の小説で、前半が『オレたちバブル入行組』、後半が『オレたち花のバブル組』にあたる。
脚本が、毎週こちらの胃を締める
このドラマの脚本は、一話ごとに同じ順番で辛さを盛ってくる。
まず、半沢が追いつめられる。上からも横からも、銀行の外からも。手がかりは消され、味方だと思った人間が向こうに回る。ここで小生の胃が、ぎゅっと縮む。
次に、細い糸が一本見つかる。書類の端の数字。誰かの手帳。古い付き合いの同期が、こっそり持ってくる話。
そして最後に、半沢がその糸を一気に引く。相手の前に、証拠を一枚ずつ並べていく。
この最後の数分のために、前の四十分がある。分かっていても、毎週同じところで汗が出る。激辛の麺を食べているときの汗と、よく似ている。ぴりっと来て、そのあとで、体の芯から熱くなるのだ。
決め台詞は書かない
このドラマには、有名な台詞がいくつもある。放送の年には、ずいぶん真似された。
ここには書かない。書いてしまうと、それだけのドラマに見えるからである。
小生がしびれたのは、言い返す場面そのものより、言い返す前の半沢の顔だ。言いたいことを、何話もかけて飲みこんでいる。飲みこんだまま、黙って書類をめくっている。その顔があるから、最後の数分が効く。
半沢の妻の花も、いい。夫の仕事に口を出しすぎない。けれど、夫が家で何を飲みこんでいるかは、ちゃんと見ている。銀行の中が辛いぶん、家の場面の味が薄めにしてあって、そこで少し息がつけるのである。
すっきり、だけではない
全十話を観終えて、すっきりした。それは本当だ。
ただ、最終話の終わり方には、すっきりだけでは済まない後味がある。何が起きるかは書かない。小生は、停止を押したあと、しばらく画面の前で腕を組んでいた。来週まで待てない、ではなく、続きを観る前に一度考えさせられる、という終わり方だった。
組織の中で働いていると、正しいことを言えば勝てる、とは限らない。そのことを、このドラマは、勝つ場面のすぐ隣に置いている。それがあるから、小生は月曜の朝に、半沢の背筋を少し借りることができたのだと思う。
浴びてほしい人
- 仕事で、言い返せなかったことを抱えて帰ってきた人
- 日曜の夜に、月曜が来るのが少し重い人
- 池井戸潤の小説を、読んだことがある人。読んでいなくても観られる
いつ浴びるか
仕事で疲れた日に、一話だけ。一話ごとに一度すっきりさせてくれる作りなので、毎晩一話ずつでもよい。ひとりの週末に前半の五話をまとめて観ると、大阪編の結末で、ちょうど汗がひく。
作品データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作品名 | 半沢直樹 |
| 放送 | 2013年7月〜9月(TBS・日曜劇場) |
| 話数 | 全10話(前半が大阪西支店、後半が東京本部) |
| 原作 | 池井戸潤『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』 |
| 脚本 | 八津弘幸 |
| 出演 | 堺雅人、上戸彩、及川光博、香川照之、北大路欣也 ほか |
| 続き | 2020年に続編が放送 |
近い気持ち
会ではまだ取り上げていない。灯に話したら、日曜の夜にそんなに汗をかいて眠れるんですか、と聞かれた。眠れなかった。それも込みで、すすめておく。
