この気持ちについて
寂しさは、ふつうは遠ざけたい気持ちです。それでも、あえて寂しさに浸りたくなる夜があります。無理に明るくしようとするより、寂しいものは寂しいと認めて、しばらくその中に座っていたい。そういう夜には、同じ温度の作品が隣にいてくれることが支えになります。
この気持ちの感情浴は、慰められることを目的にしません。作品の中にも寂しい人がいて、その人も特に救われないまま日々を続けている。それを眺めているうちに、自分の寂しさが特別なものではなく、多くの人が抱えてきたものだと分かってきます。
吉本ばななの小説『キッチン』は、ひとりになった主人公が台所という場所に寄りかかりながら、喪失のあとの時間を過ごしていく物語です。ソフィア・コッポラ監督の映画『ロスト・イン・トランスレーション』は、異国のホテルで眠れない二人の、言葉にならない孤独を静かに映します。音楽なら、サティの『ジムノペディ』のように、音と音のあいだの空白が寂しさの形をしている曲がよく合います。
寂しさへの感情浴は、深く沈みすぎないことも大切です。浸かったあとは温かい飲み物を用意するなど、戻り道を決めておくと安心です。
寂しさに浸りたいときの作品
この気持ちで記録された12作品です。しずくの数は、心が動いた大きさの目安で、作品の出来を採点したものではありません。

二十二分ごとに、太陽が終わる 『Outer Wilds』
焚き火の前で動けなくなった

目を閉じたまま乗る、夜の汽車 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』を朗読で聴く
耳の奥に汽車の音が残りました

硬度三半の主人公が、夜の見回りに会いにいく 市川春子『宝石の国』
指先が冷たくなった

滅びると分かっている人たちを、琵琶の音で見送る アニメ『平家物語』
目の奥が熱いまま終わった

読み聞かせの途中で、声がつまってしまった絵本 『ないた赤おに』
読む声がつまった

紺から灰色へ。始発の窓で聴き終えた一枚 宇多田ヒカル『BADモード』
窓の色が変わるまで聴いた

『花束みたいな恋をした』 五年分の骨組みが、少しずつずれていく
骨組みがきしむ音がした

最後の一曲が終わって、部屋の音が戻ってくるまで 藤井風『HELP EVER HURT NEVER』
余韻が長く残りました

題名は、日付だけ 坂本龍一『12』
信号をひとつ見送った

障子の向こうから聞こえてくるような、十の夢 夏目漱石『夢十夜』を耳で読む
耳の奥がひやりとしました

「わかる」と言えなくなる本 朝井リョウ『正欲』
揺れるより先に、黙った

泣けなかった、でもずっと考えている 宮﨑駿監督『君たちはどう生きるか』
まだ考え中
この気持ちになれる場面
寂しさに浸りたい作品が、どんな時によく浸かられているか。場面ごとに、作品と特集を束ねています。
近くにある気持ち
寂しさに浸りたい気持ちのとなりにある言葉です。少し違う角度から浸かりたいときに。