親指がスティックの上で止まったまま、焚き火の前から動けなかった。
目の前には、木の枝に刺したマシュマロ。遠くの空には、ちょっとずつ大きくなっていく太陽。俺はそれが何を意味するか、もう知っていた。知っていて、動かなかった。
時間制限のあるゲームが、俺は苦手だ。急かされると、景色が見えなくなるから。そのはずなのに、このゲームには、しずくを五つつけることになった。
一周目
小さな星に住む、宇宙飛行士の新人として目を覚ます。焚き火のそばで。
村の人たちに話を聞いて、木でできた小さな宇宙船に乗る。操縦は難しい。着陸に何度も失敗する。それでも、どうにか別の星に降りて、あちこち見て回っていると、空が急に明るくなる。
太陽が爆発する。世界が終わる。
そして、また焚き火の前で目を覚ます。
二十二分。それがこの世界の一周の長さだ。何をしても、しなくても、二十二分たつと太陽が終わって、最初の焚き火に戻ってくる。
十周目くらい
分かってくる。この太陽系には、ずっと昔に、別の種族が住んでいた。彼らが壁に残した文字を読むと、少しずつ何があったのかが見えてくる。
星ごとに、まったく違う顔がある。砂が流れ続ける星。重力がおかしな星。嵐が吹き荒れる水の星。どこにも、案内の矢印はない。一覧もない。あるのは、自分が見たもののメモだけ。
太陽が終わるたびに、持っていたものは全部なくなる。残るのは、俺の頭の中の知識だけ。
これが、ものすごく効いた。遠くの山を目指して歩いていくゲームはたくさんあるけど、このゲームで遠くへ行くのは、船じゃなくて、分かったことのほうなんだよな。
霧の中
ひとつだけ、こわかった場所の話をしておく。
霧に包まれた、いばらのような星がある。中に入ると、真っ白で何も見えない。遠くに、ぼんやり光が見える。仲間の焚き火かと思って近づくと、ちがう。光の正体は、書かない。ただ、俺はその星で、船のエンジンを切って、息を止めて、ただ流されていた。スティックから指を離して、画面の中の自分と一緒に、じっとしていた。
何回かその星で太陽の終わりを迎えた。こわいのに、また行ってしまう。そこにしかない手がかりがあると、分かっているから。こわさの向こうにしか、次の道がない。この太陽系は、そういうふうにできている。
遠くの山を目指すとき、途中の谷がどんなに深くても、下りないと向こうへは行けない。このゲームの霧の星は、俺にとって、その谷だった。
寂しさのこと
宇宙には、ほかにも何人か、旅に出ている仲間がいる。それぞれ別の星で、ひとりで焚き火をしていて、ひとりで楽器を弾いている。
宇宙船に、遠くの音を拾う道具が載っている。それを星の方角に向けると、ほかの仲間の楽器の音が、かすかに聞こえてくる。
ここで、コントローラーを膝の上に置いた。
宇宙はとんでもなく広くて、みんなばらばらの場所にいて、それでも同じ曲を鳴らしている。その音が、耳に届くまでの距離のことを考えたら、手が止まった。寂しいのに、ひとりじゃない。そういう音だった。
最後の周
結末には触れない。ただ、このゲームは最後まで、答えを急がせない。二十二分は変わらない。変わるのは、こっちの知っていることだけだ。
最後の周、俺は焚き火の前でマシュマロを焼いて、太陽を見ていた。そういう時間の使い方が、このゲームでは許される。
誰に
- 誰かに正解を教えてもらわないと不安な人。一度だけ、自分の頭の中の地図だけで歩いてみてほしい
- 夜に、ひとりで遠くへ行きたい人
- 急かされるのが苦手な人。俺もそうだった
いつ
眠れない夏の夜に、部屋を暗くして。一周が二十二分なので、今日は一周だけ、と決めて始められる。決めた一周で終われる人は、あまりいないと思うけど。
攻略情報は、見ないでほしい。一度知ってしまったことは、二度と知らなかったことにできない。それが、このゲームのいちばん大事なところだから。
作品データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作品名 | Outer Wilds |
| 開発 | Mobius Digital |
| 発売 | 2019年5月 |
| 遊び方 | ひとりで遊ぶ探索のゲーム。日本語の表示で遊べる |
近い気持ち
七月の感情浴会(第63回)で取り上げた。進行は俺、記録はロクさん。攻略の話を一切しないで一時間話す、というのを最初に決めた。守れたと思う。ロクさんが最後に、この太陽系は精密な時計だ、と言っていて、それが一番しっくりきた。
