ラルム / 特集

2024.12.14まとめ 草餅選んだ人 草餅・めじろ・ぬか・凪・はるまき・灯・栞・ヤギ・タカノツメ・ロク・こはぜ

冬に読みたい・観たい十一作 温まる話と、静まる話

(草餅)四時半の窓の外が、もう夕焼け色を通りこして紺色になっている。そのコマから、この特集を始めたい。

うちは冬が苦手だ。日が暮れるのが早いと、それだけで一日を損した気がする。だから今年の冬の特集の選書を任されたとき、少し迷った。でも話し合いを始めてみたら、冬が好きな人の話がとても面白かった。寒いからこそ、部屋の中の温かさが分かる。暗いからこそ、静けさが深くなる。そう言われて、そうなんだ、と思った。

候補は十一人から四十近く。冬の感情浴には二つの方向がある、という話になって、温まる話と、静まる話を中心に束ねた。そこに、冬の厳しさに心がふるえる話と、長い夜のための少し怖い話を足している。年の瀬に一年を振り返るのにも使ってもらえたらうれしい。


心まで、温まりたい

寒い日に、湯たんぽみたいに抱えていたい三つ。

『てぶくろ』の表紙

絵本・日本語版1965年

ウクライナ民話/エウゲーニー・M・ラチョフ絵『てぶくろ』内田莉莎子訳

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(めじろ)下の子は、動物が一ぴき増えるたびに、てぶくろのふくらみを指でなぞります。

雪の森で、おじいさんが片方のてぶくろを落としていく。そこにねずみが住みつき、かえるが来て、うさぎが来て、きつね、おおかみ、いのしし、とうとうくままで、次々に仲間に入れてほしいとやってくるんだなあ。てぶくろには、いつのまにか小さな窓や、はしごまでついている。

どう考えても入りきらないのに、誰も断らない。その、ぎゅうぎゅうの温かさが、冬の布団の中みたいで、あたしは大好きです。雪の降る夜に、大人がひとりで読み返しても、ちゃんと温まります。

『3月のライオン』の表紙

漫画・2007年から

『3月のライオン』羽海野チカ

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(草餅)将棋盤の前で背中を丸めた少年の、小さなコマ。まわりに、何も描かれていない。

幼いころに家族を亡くし、中学生でプロの棋士になった十七歳の少年が、ひとりで暮らしている。勝っても負けても、部屋は静かなまま。そんな彼を、川沿いの町に住む三人のきょうだいが、ごはんに呼んでくれるようになる。

こたつがあって、猫がいて、湯気の立つおかずが並ぶ。うちはこの家の場面の見開きで、毎回ページを閉じてしまう……。冷えきった部屋から温かい台所へ、少しずつ居場所ができていく話なんだ。冬の夜に、一巻からどうぞ。

『深夜食堂』の表紙

漫画・2006年から

『深夜食堂』安倍夜郎

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(ぬか)豚汁が恋しくなる季節になりました。この漫画を開くと、その気持ちがいっそう強くなるのでありました。

真夜中から朝まで開いている、路地裏の小さな食堂のお話です。献立は豚汁定食だけ。けれど、客が頼めば、できるものなら何でも作ってくれる。一話ごとに、赤いウインナーや、卵焼きや、ねこまんまといった料理が一品出てきて、それにまつわる客の人生がひとつ語られます。

寒い夜にひとりで帰ってきて、こういう店があったらいいのにと思うこと、ありませんか。わたくしはこの漫画を、その代わりに開いています。一話が短いので、湯気が消える前に読み終えます。


誰かに、会いたくなりたい

年の瀬が近づくと、しばらく会っていない人の顔が浮かんできます。その気持ちを、そっと後押しする二つです。

『東京ゴッドファーザーズ』の表紙

アニメ・2003年

『東京ゴッドファーザーズ』今敏監督

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(凪)クリスマスの夜、ごみの山の中から赤ちゃんの泣き声が聞こえてくる。見つけたのは、行き場をなくして路上で暮らしている三人で、中年の男と、元はドラァグクイーンだった人と、家出した女の子。三人とも、自分のことで手いっぱいのはずなのに、その赤ちゃんを親のもとへ返そうと、雪の東京を走り回るんです。

偶然が偶然を呼んで、ありえないくらい話が転がっていくので、最初は笑いながら観ていたんですが、三人それぞれが置いてきた家族のことが少しずつ見えてくると、自分の喉のあたりがぐっと詰まってきました。

何回観ても、最後の場面で、会いたい人に会いに行かなきゃ、と体のほうが先に思うんです。年末の、少し寂しい夜に観てほしい作品です。

『ラブ・アクチュアリー』の表紙

映画・日本公開2004年

『ラブ・アクチュアリー』リチャード・カーティス監督

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(はるまき)子どもにクリスマスの飾りつけを任せて、その横で洗濯物をたたみながら観ました。

クリスマスまでの数週間のロンドンで、十組くらいの人たちの、恋やら片思いやら家族のあれこれが、同時に進んでいく映画です。首相がいたり、作家がいたり、落ち目の歌手がいたり、小学生がいたり。話が多いのに、ちっとも散らからないんですよね。

いや、ほんとに、玄関先で、言葉を書いた紙を一枚ずつめくっていく場面が好きです。声に出せない気持ちって、ああやって渡すこともできるんだなって。観終わったら、年賀状を一枚だけ、手書きで足したくなっちゃいました。


冬の静けさに、深く静まりたい

音の少ない季節に、そのまま沈んでいくための二つです。

『雪国』の表紙

小説・1948年に完結版

川端康成『雪国』

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(灯)今年いちばんの冷えこみの夜に、読み終えました。

雪深い温泉町へ、都会から男がくり返し訪ねてきます。そこで芸者をしている女と、もうひとり、不思議な声を持つ若い娘。三人のあいだに、大きな出来事はあまり起きません。雪と、湯気と、汽車の窓に映る景色が、ずっと続いていきます。

文が、とても静かです。読んでいると、まわりの音が少しずつ吸いこまれていく感じがします。たぶん、雪が降る夜の音の消え方に似ています。

有名な書き出しだけを知っている人も多いと思います。冬の夜に、最後まで読んでみてください。

『A Charlie Brown Christmas』の表紙

音楽・1965年

ヴィンス・ガラルディ・トリオ『A Charlie Brown Christmas』

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(栞)ストーブの小さな音と、ピアノの和音が、同じ温度で聞こえた夜がありました。

子ども向けのクリスマスのテレビアニメのために作られた、ピアノのトリオのアルバムです。けれど、にぎやかなお祝いの音楽ではありません。ピアノの和音がやわらかくにじんで、子どもたちの合唱が、少し寂しそうに重なる曲もあります。

年の瀬の、みんなが浮き立っている時期に、なんとなく一人で取り残されたような気持ちになる夜があります。そういう夜に、この一枚は、寂しさをそのまま温かい水のように包んでくれる気がします。アルバムを最初から、通して聴いてください。曲の順番まで、よくできています。


寒さの中で、心をふるわせたい

厳しい冬を、一歩ずつ越えていく人たちの二つです。

ゲーム・2018年

『Celeste』

(ヤギ)指がかじかんでいるみたいに、ボタンを押すタイミングがずれた。何度も落ちた。

雪の山を、ひとりの女の子が頂上まで登る。それだけのゲームだ。一画面ごとに、跳んで、壁をつかんで、空中でもう一回だけ飛び出す。落ちたら、その画面の最初からやり直し。俺は、ある章だけで数百回落ちた。

でも、このゲームの山は、ただの壁じゃない。登っている途中で、女の子は自分の中にいる、もう一人の自分と向き合うことになる。不安や、自分を責める声と。

険しい坂を、一歩ずつ。頂上が見えたとき、手が止まった。難しさの話で終わらせたくないゲームだ。冬の、長い夜に。

『北の国から』の表紙

テレビドラマ・1981年

『北の国から』倉本聰脚本

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(タカノツメ)冬のドラマの横綱は、これである。異論は受けつけるが、小生は動かない。

東京での暮らしに行き詰まった父親が、二人の子どもを連れて、北海道の山あいの、電気も水道もない古い家へ移り住む。冬は零下の世界である。都会育ちの子どもたちは、不満を言い、泣き、それでも少しずつ、この土地で生きる手ざわりを覚えていくのだ。

脚本が、とにかく容赦しない。寒さも、貧しさも、親子のすれ違いも、あとからじわじわ効いてくる辛さで描く。そのぶん、ほんの小さな温もりが、しびれるほど沁みる。連続ドラマの本編は二十四話。年末年始の長い休みに、一話ずつ味わってほしい。


長い夜に、少しだけぞくっとしたい

冬の夜は長い。その暗さを、あえて楽しみたい人のための二つです。

『ファーゴ』の表紙

映画・1996年

『ファーゴ』ジョエル・コーエン監督

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(ロク)雪原に、車が一台。それが最初の画面だ。九十八分のうち、半分くらいは雪の白だ。

借金に困った車の販売員が、妻の狂言誘拐を二人組の男に頼む。当然のように、計画は少しずつ狂っていく。それを追うのが、身重の女性警察署長。彼女だけが、落ち着いていて、よく食べる。

要するに、白い雪原に血が一滴落ちたときの、その目立ち方の映画だ。画面の端まで、雪しかない。だから小さな出来事が全部見えてしまう。可笑しさと怖さが、同じ配線でつながっている。

外が冷えている夜ほど、効く。

『クリスマス・キャロル』の表紙

朗読で聴く・1843年

ディケンズ『クリスマス・キャロル』

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(こはぜ)一声目がしわがれた老人の声で、その冷たさに、ぼくは思わず肩をすくめたのです。

けちで冷たい老商人のもとに、クリスマスの前の晩、七年前に死んだ仕事仲間の亡霊が、重い鎖を引きずって現れる。そして、過去、現在、未来のクリスマスを見せる三人の精霊が、一人ずつ彼を訪ねてくる。

子どもの本の印象が強い物語ですが、耳で聴くと、真夜中の古い家の柱時計の音や、暗い廊下の冷たさが、じわじわと迫ってきます。そして、怖さのあとに、ちゃんと温かさが来る。年の瀬に一年を振り返るのに、これほど向いた物語は少ないのではないでしょうか。


この特集の使い方

(草餅)話し合いの最後に、冬が好きな人たちに、どうしてそんなに好きなのかを聞いてみた。

ある人は、寒い日に温かい場面を観ると、温かさが倍になるからだと言った。ある人は、冬は音が少ないから、作品の音がよく聴こえるのだと言った。うちには、どちらも少し分かった気がする。

温まりたい夜と、静まりたい夜は、たぶん交互に来る。だから、この特集は一度に全部ではなく、冬のあいだに少しずつ使ってほしい。

場面「冬」のページには、この特集に入れなかった作品の記録も並んでいます。気持ちの辞典の「優しくなりたい」「静まりたい」「誰かに会いたくなりたい」からも、近い作品を探せます。

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