この気持ちについて
ぞくっとしたい、というのは不思議な欲求です。怖いものは本来避けたいはずなのに、安全な場所にいると分かっていると、人はあえて背筋の冷える体験を求めます。夏の夜に怪談を聞きたくなるのも、同じ気持ちから来ているのでしょう。
この気持ちの感情浴は、緊張と解放の繰り返しです。何かが起きそうな静けさで息を詰め、正体が見えた瞬間に体がこわばり、作品が終わったところで一気に力が抜ける。その落差が、日常のだるさを吹き飛ばしてくれます。
鈴木光司の小説『リング』は、ありふれた道具が恐怖の入口になるという発想で、読後しばらく身の回りのものが違って見えます。伊藤潤二の漫画『うずまき』は、ある形にとりつかれていく町を描き、じわじわと理屈の外へ連れ出していく怖さがあります。アルフレッド・ヒッチコック監督の映画『サイコ』は、見せないことで怖がらせる演出の手本として、今も新しく観る人をぞくっとさせています。
怖さへの強さは人によって大きく違います。ラルムの記録では、この気持ちの作品に、どのくらい怖いかの目安も書き添えるようにしています。
ぞくっとしたいときの作品
この気持ちで記録された10作品です。しずくの数は、心が動いた大きさの目安で、作品の出来を採点したものではありません。

頭の中で鳴っていた声を、最後の章で聴きなおす 相沢沙呼『medium 霊媒探偵城塚翡翠』
読み終えて、最初の頁へ戻りました

手を離すボタンが、いちばん重かった 『ICO』
長椅子の前で、コントローラーを置いた

百七十五分、瞬きの回数を数えそこねた 李相日監督『国宝』
席を立つのが一番最後になった

雨戸を閉めて、耳で読む怪談 小泉八雲『怪談』(朗読で聴く)
耳の奥がひやりとした

草むらの向こうから、友の声がする 中島敦『山月記』(朗読で聴く)
夜明けの場面で息をのんだ

障子の向こうから聞こえてくるような、十の夢 夏目漱石『夢十夜』を耳で読む
耳の奥がひやりとしました

地下の方舟で、誰を残すのか 夕木春央『方舟』
閉じてから寒気が来た

たった一行で、島の見取り図が書き換わる 綾辻行人『十角館の殺人』
最初の頁に戻った

湯屋の配管を、ずっと目で追っていた 宮崎駿監督『千と千尋の神隠し』
電車の場面で肩が下りた

九十五分のうち、怖いのは何も映っていない時間だ 映画『リング』
背中が冷えた
この気持ちになれる場面
ぞくっとしたい作品が、どんな時によく浸かられているか。場面ごとに、作品と特集を束ねています。
近くにある気持ち
ぞくっとしたい気持ちのとなりにある言葉です。少し違う角度から浸かりたいときに。