ラルム / 作品の記録

2020.09.13媒体 映画記録 ロク

九十五分のうち、怖いのは何も映っていない時間だ 映画『リング』

背中が冷えた
『リング』の表紙
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上映時間は九十五分。そのうち、はっきり何かが画面に映るのは、ほんの数分しかない。

残りの時間、僕らが怖がっているのは、何も映っていない場所だ。

『リング』は、見た者が一週間後に死ぬというビデオテープの話だ。テレビ局で働く浅川玲子は、姪の不審な死を追ううちに、そのテープにたどりつく。そして、自分でも再生してしまう。見終えた直後、部屋の電話が鳴る。

ここから映画は、残りの日数を刻む時計になる。

心が動いた場面

僕がいちばん冷えたのは、呪いのビデオの中身そのものだった。

鏡の前で髪をとかす女。並びが崩れていく新聞の文字。頭に布をかぶった男が、画面の奥を指さしている。そして、古い井戸。

一つ一つに意味はない。説明もない。要するに、壊れた機械が吐き出した部品のような映像だ。

つながらない部品ほど、頭は勝手に組み立てようとする。組み立て図がないまま、夜中まで考えてしまう。映画を観終えたあとも、あの映像のことだけは、何日か頭の中で回り続けた。

もう一つは、撮り方だ。

画面の端に、何かがいる気がする構図が続く。廊下の奥。ふすまの隙間。消えたテレビの黒い画面に、映りこむ部屋。はっきり何も映らないから、目が勝手に探しに行く。探しているうちに、観ている側がいちばん疲れる。この映画の怖さは、そういう配線でできている。

音も少ない。大きな音で驚かせる場面は、ほとんどない。代わりに、耳の奥できしむような低い音が、ずっと鳴っている。

テープという機械

一九九八年は、まだビデオテープの時代だった。

再生ボタンを押す。黒い画面に雑音が走る。映像が終われば、巻き戻す。その一つ一つの手間が、この映画では儀式になる。棚に並んだラベルのないテープ。誰かが録画して、誰かが貸して、誰かが見る。要するに、呪いの通り道が、当時の家にあった機械の形そのままになっている。

僕の家にも、中身の分からないテープが何本かあった。観終えた夜、その一本を再生する気には、どうしてもなれなかった。今の人が観ても、スマホの動画に置きかえれば、同じ冷たさはたぶん届く。

竜司のこと

浅川は、元夫の高山竜司に助けを求める。竜司は、見えないものが見える男として描かれる。二人はテープの出どころを追って、海の向こうの島へ渡る。

ここから中盤は、謎を解く話になる。怖さは少し引く。そのぶん、残りの日数が減っていく感覚が強くなる。二人の間にある、冷えた空気もいい。夫婦だった二人が、子どものために同じ方向を向く。その距離の取り方に、変な温度がある。

最後のこと

最後の場面については書かない。

有名すぎて、観る前から知っている人も多いと思う。それでも言っておく。知っていても怖かった。仕掛けを知っていることと、それが目の前で起きることは、別の話だった。

誰に

怖いのは好きだが、血や痛い場面は苦手な人に。この映画には、ほとんど血が出ない。

最近の怖い映画の、大きな音に疲れた人にも。静かな怖さがどういうものか、ここで一度確かめられる。

「号泣」や「絶叫」のような宣伝の言葉に、うんざりしている人にも向いている。この映画は、何も言わずに冷やしてくる。

いつ

雨の夜。部屋の電気を一つだけ残して観るのがいい。

ひとつだけ注意がある。観終えた直後に電話が鳴らないように、スマホの音は切っておくことをすすめる。僕は切り忘れて、会社からの連絡で飛び上がった。

観たあとに眠れなくなった人のために、次のしずく通信に、怖い映画を観たあとの眠り方を書くつもりでいる。要するに、明るい場所で、何か温かいものを飲むことだ。

作品データ

項目 内容
作品名 リング
監督 中田秀夫
原作 鈴木光司の小説
脚本 高橋洋
出演 松嶋菜々子、真田広之、中谷美紀
媒体 映画
公開 1998年1月
上映時間 95分

近い気持ち

会で観たのは、夏の終わりだった。画面越しに、全員で同時に再生した。終わったあと、全員がしばらく自分の部屋の後ろを振り返っていた。その夜のことは栞の記録にある。

(記録:ロク)

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