この気持ちについて
泣きたいのに泣けない、という日があります。悲しいことがあったわけでもないのに、胸のあたりに何かがつかえて、息が浅くなっている。そんなときに求めているのは、悲しみそのものより、涙が出たあとの軽さなのだと思います。
感情浴で「泣きたい」を選ぶときは、作品の中の誰かの涙を借りることになります。自分の出来事では泣けなくても、ページや画面の向こうの別れや再会には、不思議と素直に涙が出る。借りた涙でも、流れたあとには自分の中にたまっていたものも一緒に出ていきます。
この気持ちを連れてきやすいのは、長い時間をかけて積み上げたものが、最後に一度だけ報われる作品です。アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』のように一話ごとに誰かの思いが届く連作、高畑勲監督の映画『火垂るの墓』のように見終えてしばらく言葉が出なくなるもの、佐野洋子の絵本『100万回生きたねこ』のように短い中に一生が詰まったもの。媒体や長さよりも、途中で止めずに最後まで浴びられる時間を用意することが、いちばんの準備です。
泣きたいときの作品
この気持ちで記録された13作品です。しずくの数は、心が動いた大きさの目安で、作品の出来を採点したものではありません。

アナグマのいない春に、みんなが話したこと スーザン・バーレイ『わすれられないおくりもの』
読み聞かせの声が出なくなった

遅すぎるなんて、誰が決めたんだろう つるまいかだ『メダリスト』
見開きのたびに息を止めた

『マイ・ブロークン・マリコ』 骨箱を抱いて、夜行バスの窓側に
膝の上が重たかった

将棋のルールを知らないまま、五巻で本を伏せた 羽海野チカ『3月のライオン』
五巻で本を伏せた

片思いの置いていき方を、美大の片すみで知った 羽海野チカ『ハチミツとクローバー』
自転車のうしろ姿で、めくる手が止まった

何回観ても、流星の夜で喉がつまる 『葬送のフリーレン』
声が出なくなった

雨の田んぼ道で跳ねる、あのコマのこと 藤本タツキ『ルックバック』
見開きで本を閉じた

指文字で、子どもの名前を三回なぞった夜 ドラマ『silent』
手の動きを何度も巻き戻した

最終回の一つ前で、画面がにじんで見えなくなった 『宇宙よりも遠い場所』
息ができなくなった

春が来る前に、泣く準備をしておく漫画 新川直司『四月は君の嘘』
最終巻は三回に分けて読んだ

半年かけて、あんぱんを一個食べきった 連続テレビ小説『あんぱん』
最終週は朝から効いた

鉛筆の線が五人になって、コートへ歩いてくる 『THE FIRST SLAM DUNK』
背中がずっと熱かった

読み聞かせの途中で、声がつまってしまった絵本 『ないた赤おに』
読む声がつまった
この気持ちになれる場面
泣きたい作品が、どんな時によく浸かられているか。場面ごとに、作品と特集を束ねています。
近くにある気持ち
泣きたい気持ちのとなりにある言葉です。少し違う角度から浸かりたいときに。