第1話の、四人で流星群を見上げる場面から話させてください。
魔王を倒して王都に戻ってきた勇者たちが、夜空いっぱいに流れる星を見上げていて、そこでエルフの魔法使いのフリーレンが、次は五十年後にもっとよく見える場所へ案内すると軽く約束するんです。人間にとっての五十年と、千年以上生きるエルフにとっての五十年が、この時点ではまだ同じ重さに聞こえてしまうのが、あとから思えば本当にこわい。
そして物語は、ほんとうに五十年後へ飛びます。
心が動いた場面
約束どおりフリーレンが戻ってくると、勇者ヒンメルはすっかり年をとっていて、それでも四人でもう一度流星を見に行き、その旅を終えてほどなくヒンメルは亡くなります。葬儀の場で、フリーレンは自分がこの人のことをほとんど知ろうとしなかったと気づいて、そこで初めて涙をこぼすんです。
ここ、本当に、何回観ても喉がつまります。泣く理由を説明する台詞がほとんどないまま、ただ「知らなかった」という事実だけが目の前に置かれるので、観ているこちらも逃げ場がなくて、気づいたら背中が丸くなっていました。
自分がこの作品でいちばん救われたのは、そのあとの旅の中身でした。フリーレンは新しい弟子のフェルンを連れて、かつて勇者たちと歩いた道をもう一度たどり直していきます。そのあいだに、昔の仲間がしてくれた小さなことを、一つずつ、ずっと遅れて受け取っていくんです。
たとえば、フリーレンがヒンメルの故郷に咲いていた花を、何か月もかけて探しまわる回があります。見つけた花を像のまわりに咲かせたときの、あのしんとした明るさは、泣かせにきている場面ではないのに、自分はそこで一度再生を止めて、カップ麺のお湯が冷めていくのをただ見ていました。
中盤、フェルンとシュタルクが二人で街を歩く回では、フリーレンが昔ヒンメルから指輪を受け取ったときのことを思い出します。ひざまずいて指にはめてくれたその指輪の飾りに、どんな意味があったのか。当時の彼女は深く考えていなかったし、ヒンメルも口に出して説明しなかった。その「言わなかった」ことが、何十年もたってから届くんです。
この作品のすごいところは、失ったあとの時間を、ずっと取り返しのつかないものとしては描かないところだと思います。遅すぎたとしても、知ろうとすることには意味がある。大切な人に先に行かれてしまった経験のある人ほど、ここで少し呼吸が楽になるんじゃないかと思うんです。
誰に浴びてほしいか
- 誰かを見送って、もっと話しておけばよかったと思い続けている人
- 昔の仲間と、しばらく連絡をとっていない人
- 冒険ものは苦手でも、静かな物語なら観られる人。戦う場面はありますが、心が動くのはたいてい戦いのあとの静かなところです
いつ浴びるか
眠れない夜に、第1話だけを観るのがいちばんだと思います。二話、三話と続けたくなる気持ちはぐっとこらえて、流星の場面のあとに一度画面を消してみてください。一話だけでも、最後の一周を走り終えたあとのような疲れと、少しの軽さが残ります。
全部を通して観るなら、冬の休みのような、まとまった時間がとれる時期がおすすめです。旅の季節が少しずつ移っていくので、こちらの季節とずれていても不思議と気になりません。
作品データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作品名 | 葬送のフリーレン(テレビアニメ) |
| 原作 | 山田鐘人(原作)・アベツカサ(作画)の漫画 |
| 監督 | 斎藤圭一郎 |
| 制作 | マッドハウス |
| 媒体 | アニメ |
| 放送 | 2023年9月〜2024年3月 |
| 話数 | 全28話(1話およそ24分) |
近い気持ち
- 救われたい……遅れて届くものが、それでも届く
- 泣きたい……第1話の葬儀の場面
- 誰かに会いたくなりたい……観終えたあと、昔の友だちの名前を検索してしまう
二月の感情浴会(第46回)でもこの作品を取り上げました。その夜の話は、栞の記録にまとまっています。自分はあの会で二度、マイクを切りました。
(記録:凪)
