映画の始まり、真っ白な画面に鉛筆の線が一本引かれて、その線がだんだん人の形になって、一人、また一人と、五人の選手がこっちへ歩いてくる。
自分は、あそこでもう、背中が熱くなっていました。まだ何も始まっていないのに。原作の漫画を読んでいたころの、ページをめくる指の感じが、一気に体に戻ってきたんです。
主人公が、あの人だった
『THE FIRST SLAM DUNK』は、漫画『SLAM DUNK』を描いた井上雄彦さんが、自分で脚本を書き、監督をしたアニメ映画です。
原作を読んでいた人なら、まず驚くのが、主人公です。この映画の中心にいるのは、原作の主人公ではなく、湘北高校のポイントガード、宮城リョータなんです。
リョータは、沖縄で育ちました。幼いころに、バスケの上手だった兄を亡くしています。その兄の背中を追いかけるようにしてバスケを続けてきたこと、母親との間にずっと言葉にできないものがあること。原作ではほとんど描かれなかったリョータの過去が、この映画では、試合の合間に少しずつ差しこまれていきます。
一試合、まるごと
映画の軸になるのは、全国大会での、ある強豪校との一試合です。
原作を知っている人には、どの試合か、すぐ分かると思います。結果も、たぶん知っている。自分も知っていました。それなのに、観ているあいだ、何回も息を止めていました。
ボールが床をたたく音。シューズが鳴る音。観客の声が、ふっと遠のく瞬間。試合の時間と、リョータの記憶の時間が、交互にやってきて、そのたびに体の中の温度が上がったり下がったりする。最後の一周を走っているときの、あの、足はもう限界なのに体だけが前に出ていく感じが、映画の後半、ずっと続くんです。
原作を知らない人でも、大丈夫だと思います。この映画は、リョータという一人の選手の話として、ちゃんと閉じているので。
自分がいちばん熱くなったところ
試合の話ではありません。リョータと母親の、ほんの数分の場面です。何が起きるかは書きませんが、ずっと言えなかったことを、ようやく相手に渡そうとする場面があります。自分はそこで、映画館の暗い中で、喉がつまって、しばらく前が見えなくなりました。
熱くなる映画だと思って観に行って、泣かされて帰ってくる。ここ、本当に、何回観ても同じところでやられます。
しずくは四つにしました。五つにしなかったのは、原作を読み返してから観た二回目のほうが、もっと来たからです。最初の一回で全部を受け取りきれなかった分、ひとつ引いておきます。
音のこと
音の話も少しだけ。
映画の始まりに流れるのは、The Birthday の「LOVE ROCKETS」、終わりに流れるのは、10-FEET の「第ゼロ感」です。試合が始まる前の、あの鉛筆の線の場面に重なるギターの音で、自分の体はもう試合の準備ができていました。エンドロールでは、映画館の座席から、しばらく立てませんでした。
試合の中では、音楽がぴたっと止む瞬間があります。ボールの音と、息づかいだけになる。そこで、自分も一緒に息を止めていました。
誰に浴びてほしいか
- 部活や、何かの試合に本気で打ちこんでいたことがある人
- 家族と、ずっと言葉にできないものを抱えている人
- 原作を昔読んでいた人。今の自分で観ると、たぶん別の場所で泣きます
いつ浴びるか
大事な試験や勝負の前の日に。観終わると、体の芯に火がついたままになるので、次の日に持ちこせます。
仕事で疲れた日にもいいと思います。疲れているのに、最後の数分で、なぜか体が軽くなるので。夏に観ると、あの体育館の蒸し暑さまで思い出します。
作品データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作品名 | THE FIRST SLAM DUNK |
| 原作・脚本・監督 | 井上雄彦 |
| 制作 | 東映アニメーション、ダンデライオンアニメーションスタジオ |
| 媒体 | アニメ(劇場アニメ) |
| 公開 | 2022年12月 |
| 上映時間 | 124分 |
近い気持ち
八月の感情浴会(第40回)で、自分の進行で取り上げました。記録はヤギです。上映がとても長く続いていたので、みんなそれぞれ映画館で観てきてから、画面越しに話しました。ヤギが、あの試合の最後の一分は、ゲームのボス戦より手に汗をかいた、と言っていて、みんなで笑いました。
(記録:凪)
