第5話の、出発の朝にキマリが幼なじみと向き合う場面から話させてください。
高校二年のキマリは、青春らしいことを何ひとつしないまま毎日が過ぎていくのが怖くて、ある日、学校をさぼって遠くへ行こうとして、結局それすらできずに帰ってきてしまうような子なんです。そんなキマリが、南極へ行くと決めた同級生と出会って、自分もそこへ行こうとする。その出発の朝に、ずっとそばにいた幼なじみが、胸の中にしまっていたことを打ち明けるんです。
中身は書きません。ただ、あの場面のキマリの返し方が、自分はいまだに何回観ても同じところで喉がつまります。怒るでもなく、泣くでもなく、ただ相手をまっすぐ見て、自分がどうしたいかだけを言う。そこで初めて、ああ、この子はもう出発してるんだ、と分かるんです。
四人のこと
『宇宙よりも遠い場所』は、四人の女子高生が南極を目指す話です。
南極で行方が分からなくなった母親を追って、アルバイトで百万円を貯めてきた報瀬。何かを始めたくて仕方がなかったキマリ。高校に行かずにコンビニで働いている日向。仕事で子どものころから忙しく、友だちというものを持ったことがない結月。
四人は、民間の観測隊の船に乗せてもらうために、大人たちを説得して、訓練を受けて、本当に海を渡っていきます。無謀な話なのに、観ていると一話ごとに体が前のめりになっていくんですよね。最後の一周の手前で、脚がまだ動くことに自分で驚くみたいな感じが、毎話ある。
四人とも、何かを置いてきた子たちなんです。友だちとの関係だったり、学校だったり、大切な人だったり。その置いてきたものと、南極という遠い場所で、一人ずつ向き合っていく。
報瀬が怒る場面
四人の中で、自分がいちばん好きなのは、報瀬が誰かのかわりに怒る場面なんです。
日向が高校に行かなくなった理由が明かされる回があります。日向本人は、もう気にしてない、という顔で笑っている。いつも明るくて、みんなを引っ張っていく日向が、その話のときだけ、少しだけ目をそらす。そこへ、報瀬が出ていくんです。日向のかわりに、まっすぐ、ものすごく不器用な言葉で怒る。
ここ、本当に、何回観ても背中が熱くなります。報瀬はふだん、人付き合いがうまくないし、言葉も強すぎるし、空気もあんまり読めない。そんな子が、友だちのために、一番下手なやり方で、一番まっすぐに怒る。自分はこの場面で、泣きながら、ちょっと笑ってました。友だちっていうのは、たぶんこういうことなんだと思います。
結月のこと
もうひとり、結月の話もさせてください。
結月は、子どものころから仕事で忙しくて、学校の友だちというものをほとんど持ったことがない子です。だから、三人と一緒に旅をするようになっても、自分がこの中に入っていいのか、友だちというのはどうやってなるものなのか、ずっと分からないでいる。それを確かめようとして、ちょっと不器用なことをしてしまう回があります。
自分はそこで、笑いながら喉がつまりました。大人になってからのほうが、この気持ちは分かる気がするんです。仕事の知り合いは増えるのに、友だちと呼べる人は、いつのまにか増えなくなっている。その心細さを、結月は十代で、もうまっすぐに抱えている。
三人が結月に何を返すのかは書きません。ただ、あの回を観たあと、自分は学生のころの友だちに、何年ぶりかでメッセージを送りました。返事は、次の日の朝に来ました。
第12話のこと(少しだけ中身に触れます)
最終回の一つ前、第12話の話をさせてください。ここは、まだ観ていない人は読み飛ばしてもらって大丈夫です。
報瀬は、南極にある母親の最後の場所にたどり着きます。そこで、母親が使っていたノートパソコンを開く。報瀬はこの三年間、返事が来ないと分かっていながら、母親あてにメールを送り続けてきたんです。
画面に、未読のメールが次々に届いていく。
ここ、本当に、自分は画面がにじんで何も見えなくなりました。届かないと知っていて送り続けた言葉が、いちばん遠い場所で、一度に届いてしまう。報瀬が声を上げて泣くのを、観ている自分も、止めることができなかった。最終回の一つ前の回が好きだとずっと言ってきましたが、この回は、その中でもいちばん上にあります。
誰に浴びてほしいか
- 何かを始めたいのに、最初の一歩でいつも止まってしまう人
- 誰かに送った言葉が、届いたのかどうか分からないままの人
- 昔の友だちと、しばらく連絡をとっていない人
いつ浴びるか
新しい年の始まりや、春の手前がいいと思います。何かを始める前の、落ち着かない時期に。
全部で十三話なので、休みの二日間で観られます。第12話と最終回だけは、続けて観る時間を作ってください。その二話のあいだで一度止めるのは、正直つらいと思うので。
作品データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作品名 | 宇宙よりも遠い場所(テレビアニメ) |
| 監督 | いしづかあつこ |
| 脚本 | 花田十輝 |
| 制作 | マッドハウス |
| 媒体 | アニメ |
| 放送 | 2018年1月〜3月 |
| 話数 | 全13話 |
近い気持ち
- 誰かに会いたくなりたい……観終えたあと、ずっと会っていない友だちの顔が浮かぶ
- 泣きたい……第12話の、次々に届くメール
- 熱くなりたい……無謀な出発に、体が前のめりになる
十二月の感情浴会(第20回)で、自分の進行で取り上げました。記録はめじろがまとめてくれています。あの夜、第12話を観終えたあと、自分はしばらく何もしゃべれなくて、めじろに名前を二回呼ばれてから、やっと返事をしました。
(記録:凪)
