ラルム / 作品の記録

2024.09.22媒体 漫画記録 草餅

『マイ・ブロークン・マリコ』 骨箱を抱いて、夜行バスの窓側に

膝の上が重たかった
『マイ・ブロークン・マリコ』の表紙
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夜行バスの窓側の席。シイノが、白い箱をひざに抱えて座っている。窓の外は真っ暗で、ガラスに自分の顔だけが映っている。

うちは、このコマのところで、毎回ページをめくる手が遅くなる。

おととしの秋、特集「大切な人を亡くしたときに」で、この漫画のことを短く書いた。あのときは加入したばかりで、四段落しか書けなかった。書ききれなかったことが、ずっと残っていた。この春から会社員になって、半年。久しぶりに読み返した。前とは違う場所で止まったので、そのことを残しておく。

どんな話か

シイノトモヨは二十六歳の会社員。ある日、ラーメン屋のテレビのニュースで、親友のイカガワマリコが亡くなったことを知る。

マリコは子どものころから、父親にひどいことをされてきた子だった。大人になってからも、つらい相手とばかり付き合っていた。そのたびに、シイノが話を聞いてきた。

シイノは、マリコの遺骨を、父親の家から奪って逃げる。そのまま、昔マリコが行きたがっていた海の岬へ向かう。名前が自分に似ているから、と言っていた場所。

旅のあいだに、お金をなくしたり、知らない土地で途方に暮れたりする。岬の近くで、マキオという青年に助けられる。一冊で終わる話で、ページ数はそんなに多くない。でも、読み終えると一日ぶん歩いたみたいに疲れる。

二年前に書いたこと、書かなかったこと

二年前は、シイノの乱暴さに救われた、と書いた。怒ってもいい、きれいに悲しめなくてもいい、って。その気持ちは今も変わらない。

ただ、二年前のうちは、シイノのことを「強い人」だと思って読んでいた。口が悪くて、行動が早くて、誰の言うことも聞かない人。

今回は違った。シイノは、たぶんすごく疲れている人なんだ。

仕事の電話に頭を下げたり、ひとりでたばこに火をつけたり。そういうコマが、物語の最初のほうに何枚かある。前は読み飛ばしていた。今は、そこでいちいち止まってしまう。自分も半年、似たような帰り道を歩いているからだと思う。

だから、遺骨を奪う場面が、前よりずっと切なく見えた。あれは勇気というより、もう限界だった人の、最後の力みたいなものなんだ。そこに友だちの骨があったから、走れた。

見開きで、シイノが箱を抱えて、あの家から飛び出していく。コマとコマのあいだで、息の音が聞こえる気がする。二年前は、ここで胸がすっとした。今回は、ここで泣いた。

マリコのほうを向いて

もうひとつ、今回気づいたことがある。

回想の中のマリコは、いつもシイノのほうを見て笑っている。子どものころのマリコも、制服のマリコも、大人になったマリコも。その笑い方が、少しずつ変わっていく。うちは前に読んだとき、それに気づかなかった。

シイノは旅のあいだ、マリコに向かって、ずっと話しかけている。怒ったり、責めたり、謝ったり。返事はない。骨は答えない。それでも話しかけるのをやめない。

大切な人を亡くしたあとの、あの「言えばよかった」の山を、シイノは全部ひとりで背負って岬まで行く。うちは誰かを亡くしたことを、まだ数えるほどしか知らない。それでも、シイノが箱に向かって話すコマは、夕焼け色ににじんで見えた。

最後のほうで、シイノのもとにあるものが届く。それが何かは書かない。ただ、うちはそこで本を閉じて、しばらく窓の外を見ていた。九月の終わりの、夕方の空だった。

この漫画には、つらい過去の描写がある。心が弱っている日には、無理に開かなくていいと思う。でも、誰かにちゃんと怒れなかったまま別れてしまった人には、いつか読んでほしい。怒っていい、と言ってくれる一冊だから。

一冊で終わるので、通勤の電車で半分、帰りのバスで半分。うちはそうやって読んだ。

項目 内容
作品名 マイ・ブロークン・マリコ
作者 平庫ワカ
初出 KADOKAWA のウェブ漫画誌「comic BRIDGE」(2019年)
単行本 全1巻(2020年1月)
映画 2022年9月に実写映画が公開

近い気持ち

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