
消す手術は一晩で終わる。消えないものの話 ミシェル・ゴンドリー監督『エターナル・サンシャイン』
缶コーヒーを開けたまま、飲まなかった

百七十五分、瞬きの回数を数えそこねた 李相日監督『国宝』
席を立つのが一番最後になった

いや、ほんとに、こういう職場があったらいいのに 『夜明けのすべて』
洗濯物をたたむ手が止まった

同じ朝は、一度も来なかった ヴィム・ヴェンダース監督『PERFECT DAYS』
翌朝、空を見上げた

火事の夜が、三回映る 是枝裕和監督『怪物』
二回目で、最初の場面が違って見えた

富士山より高い雪原で、ラーメンが切れる 映画『南極料理人』
腹が鳴った

音が消えた数十秒に、家族の席へ座らされる 『コーダ あいのうた』
洗いものの手が止まりました

三十七分、カメラは止まらない 『カメラを止めるな!』
部品が噛み合う音がした

客の来ない食堂で、肩の力が抜けていく 映画『かもめ食堂』
肩がすとんと落ちました

『花束みたいな恋をした』 五年分の骨組みが、少しずつずれていく
骨組みがきしむ音がした

湯屋の配管を、ずっと目で追っていた 宮崎駿監督『千と千尋の神隠し』
電車の場面で肩が下りた

九十五分のうち、怖いのは何も映っていない時間だ 映画『リング』
背中が冷えた