日曜の朝、家族がまだ寝ているうちに、台所の小さな椅子に座って再生しました。
お湯を沸かしながら観始めたら、画面の中でもコーヒーを淹れていて、なんだか笑っちゃいました。
『かもめ食堂』は、フィンランドのヘルシンキの街角で、日本人のサチエがひとりで小さな食堂を開く話です。看板のメニューは、おにぎり。でも、お客さんは来ません。一日じゅう、誰も来ない。サチエはそれでも毎日お店を開けて、グラスを磨いて、ぴかぴかの台所に立ちます。
何も起きない、がいい
この映画、ほんとに大きなことは何も起きないんです。
最初のお客さんは、日本のアニメが好きな現地の青年で、ある古いアニメの主題歌の歌詞を教えてほしいと頼んできます。サチエは思い出せない。その答えを知っていたのが、たまたま本屋さんで出会った旅の日本人、ミドリでした。ミドリはそのまま、なんとなくお店を手伝うようになる。
もうひとり、空港で荷物が届かなくて困っているマサコも、なんとなくお店に来るようになる。
三人とも、どうしてフィンランドにいるのか、はっきりとは語られないんですよね。聞かれても、ちょっとはぐらかす。過去の事情を全部説明しないまま、今日の台所に立っている。はるまきはそれが、すごくいいなと思いました。
いちばん好きな場面
シナモンロールを焼く場面です。
外を通る人たちが、ガラス越しにお店をちらちら見ていく。サチエはある日、シナモンロールを焼き始めます。オーブンから甘い匂いが広がって、それまで素通りしていた近所のおばさんたちが、匂いにつられて、ついにドアを開ける。
いや、ほんとに、画面から匂いがしてくるんです。はるまきはこの場面のあと、再生を止めて、戸棚にあったシナモンを確かめに行きました。ありませんでした。
おにぎりの場面も好きです。サチエにとっておにぎりは、特別な意味のある食べものなんですが、それが分かる場面は、ほんの少し胸に来ます。梅と鮭とおかか。握る手つきが丁寧で、観ているだけで、炊飯器のふたを開けたくなります。
ほどける理由
この映画を観ていると、肩がすとんと落ちるんですよね。
誰も誰かを急かさない。お店が流行らなくても、サチエは焦った顔をしない。ミドリもマサコも、何かを取り戻しに来たのかもしれないけど、それを無理に言葉にしない。家事で言うと、洗濯物を干したあと、乾くまで放っておける時間、みたいな映画です。
しずくは三つにしました。泣いたり、大笑いしたりする映画じゃないんです。でも観たあとの台所が、ちょっとだけ広く見える。それで十分だと思ってます。
誰に
- 毎日、誰かのために時間を使っている人
- 自分のお店や、自分の居場所を持つのが夢の人
- 遠くへ行ってしまいたい、と一度でも思ったことのある人
いつ
休日の朝がいちばんです。コーヒーを淹れて、できれば何か甘いものを用意してから。おなかが空いた状態で観ると、途中で止めることになります。
仕事で疲れた夜にもいいです。一時間半とちょっとなので、寝る前に観られます。
作品データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作品名 | かもめ食堂 |
| 監督・脚本 | 荻上直子 |
| 原作 | 群ようこ |
| 出演 | 小林聡美、片桐はいり、もたいまさこ |
| 媒体 | 映画 |
| 公開 | 2006年3月 |
| 上映時間 | 102分 |
近い気持ち
六月の感情浴会(第14回)で、ロクの進行で取り上げました。記録はめじろです。会の最後に、みんなで好きなおにぎりの具を言い合ったのが楽しかったですよね。
(記録:はるまき)
