親指の付け根が、じんと痛かった。
時計を見たら、朝の五時だった。カーテンの隙間が白くなっていた。夜の十時に「あと一人ぶんだけ」と思って始めて、そのまま一度もコントローラーを置かなかった。
『十三機兵防衛圏』は、十三人の高校生の話だ。
1980年代の日本に似た街で暮らす少年少女たちが、ある日、街に現れた巨大な怪獣と戦うことになる。戦う手段は、「機兵」と呼ばれる大きな機械。そこまで聞くと、よくあるロボットものに思える。俺もそう思っていた。
違った。
十三本の道
このゲームは、三つの部分でできている。
十三人の主人公の、それぞれの物語を追いかける部分。怪獣と戦う部分。そして、分かったことを整理する資料の部分。
いちばん長いのは、十三人の物語だ。これを、ほとんど好きな順番で読んでいける。今日はこの子、次はあの子。一人の話が行き詰まったら、別の子の話に行く。
最初は、ばらばらの道を歩いている感じだった。遠くの山に向かって、十三本の道が別々に伸びている。どの道も、途中で霧がかかっていて、先が見えない。
ところが、しばらく進むと、道と道が交わり始める。
ある子の話の中で、別の子がちらっと出てくる。ある子が見た奇妙な出来事が、別の子の話の中で、まったく違う意味を持って語り直される。同じ場面を、違う子の目から見ると、見えていたものが裏返る。
ここで手が止まった。
分かれ道だと思っていたものが、全部同じ山につながっている。それが見えた瞬間、背中がぞわっとした。そこからは、もう止まれなかった。
戦う部分のこと
怪獣と戦う部分は、画面ががらりと変わる。
街は線だけで描かれた地図になり、機兵と怪獣は小さな記号になる。上から見下ろして、どの機兵をどこに動かすかを決めていく。派手な映像を期待すると、最初は拍子抜けするかもしれない。
でも、俺はこれが好きだった。物語の部分で一人ひとりの顔を知ったあとで、その子たちが記号になって、同じ地図の上で並んで戦う。記号なのに、誰がどこに立っているか分かる。あいつがここを守っている、と思うだけで、手に汗が出た。
物語の部分の絵は、とにかくきれいだ。夕方の商店街、放課後の教室、雨上がりの路地。全部、手で描いた絵のように見える。その中を歩いているだけで、行ったことのない時代が懐かしくなる。
好きなやつ
十三人とも、ちゃんと一人の人間として描かれている。
いちばん好きなのは比治山だ。焼きそばパンにやたらこだわる、硬派ぶった男。最初は笑いの担当かと思っていたら、彼の話で、俺は一回、本気で泣きそうになった。理由は書かない。
冬坂の話も好きだ。ひとりの女の子が、ある出会いをきっかけに、自分の知らなかった気持ちに振りまわされていく。恋の話としても、ちゃんと胸が苦しくなる。
十三人それぞれに、誰にも言えない秘密と、誰かに会いたい理由がある。その全部が、最後に一本の糸によじれていく。
どう、よじれるのかは書かない。書いたら、このゲームの一番いいところがなくなる。
誰に
長い物語が好きな人。小説や漫画の、伏線が回収される瞬間が好きな人。
ゲームはあまりやらない人にもすすめたい。戦う部分はあるが、難しさはかなり選べる。物語の部分は、ほとんど読むだけで進んでいける。
いつ
ひとりの週末。できれば、次の日に予定のない週末。
俺みたいに夜に始めると、たぶん朝になる。それでもいいと思う。眠れないまま朝になった夜のことを、あとでちょっと誇らしく思い出せるゲームだ。
春の夜にもいい。新しい季節が始まる前の、少し落ち着かない夜に。
作品データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作品名 | 十三機兵防衛圏 |
| 開発 | ヴァニラウェア |
| 販売 | アトラス |
| 媒体 | ゲーム |
| 発売 | 2019年11月(プレイステーション4)。2022年にニンテンドースイッチ版 |
| 遊ぶ長さ | 俺は四十時間ちょっとかかった |
近い気持ち
会では、十三人の誰がいちばん好きかで、二時間を超えた。ぬかは、比治山の焼きそばパンの話だけで十分はしゃべっていた。
(記録:ヤギ)
