ラルム / 読みもの

2025.10.18文 いちょう

同時視聴しか知らなかった私が、ひとりで観直した夜

電車の中で、会の昔の記録を読んでいたら、降りる駅をひとつ過ぎていました。

四月に一滴舎に入ってから、半年がたちました。いちばん新しいメンバーなので、会で話すときは、まだ少し緊張します。みんなが何年も前の会の話をしていると、ついていけないこともあって。それで夏ごろから、通学の電車で、過去の記録を少しずつ読むようにしています。

その中に、二〇二三年一月の第三十三回の記録がありました。『ぼっち・ざ・ろっく!』の回です。進行は凪さん、記録はオトさん。

読んで、びっくりしました。私の知ってる『ぼっち』と、ぜんぜん違うことが書いてあったから。

私の『ぼっち』

『ぼっち・ざ・ろっく!』は、人と話すのがものすごく苦手な女の子が、ギターを抱えて、バンドに入ることになる話です。家では毎日何時間も練習していて、ネットでは顔を出さずに演奏動画を上げている。でも、人前に出ると、まともにしゃべれない。そんな子が、少しずつバンドの一員になっていく。

放送があったのは、私が高校生のときでした。

私はこれを、ほぼ全部、友だちと同時視聴で観ました。放送の時間に合わせて、みんなで通話をつなぎながら観る。画面の横では、チャットがずっと流れてる。主人公がおかしなことをするたびに、みんなで一斉に笑う。毎週それが楽しみで、放送が終わったあとも、一時間くらい話してました。

だから私にとって『ぼっち』は、ずっと「みんなで笑うアニメ」でした。

記録に書いてあったこと

オトさんの記録は、短い文と、たくさんの改行でできていました。

その夜は、全十二話をそれぞれ観てきたうえで、第八話だけをみんなで同時に再生したそうです。バンドの初めてのライブの回。外は台風で、お客さんはまばら。演奏がうまくかみ合わない。そのとき、主人公がひとりで、ギターで空気を変えていく。

凪さんは、演奏が崩れかけたところで主人公が顔を上げる場面で、背中が熱くなると話していました。灯さんは、元気が出るというより、元気を出さなくていいと言われている気がした、と。そしてオトさんは、元気は大きな声の中ではなく、ぎりぎりのところでもう一回だけ弦を鳴らす手の中にあった、と書いていました。

私は、あの場面で泣いた記憶がありません。たしか、通話の向こうもチャットも、ただ盛り上がってた気がします。

同じ場面なのに。

ひとりで観直した夜

気になって、その週の土曜の夜、ひとりで第一話から観直しました。

通話はつながない。チャットも流さない。部屋の電気を少しだけ暗くして、イヤホンをつけて。

最初のうちは、変な感じでした。笑うところで、誰も一緒に笑ってくれない。自分ひとりの笑い声が、部屋の中でちょっと浮いて聞こえる。

でも、三話目くらいから、見えるものが変わってきました。

主人公が、押し入れの中でひとりギターを弾いてる場面。前はそこも笑って観てたのに、ひとりで観ると、なんだか胸がぎゅっとなりました。この子は、ずっとひとりで、誰にも見られずに、何年もこうやって弾いてきたんだ、って。

そして第八話。

嵐の音と、ほとんど誰もいないライブハウス。主人公がギターを鳴らした瞬間、気づいたら、手が止まってました。息も止まってたかも。終わったあと、しばらく再生を止めたまま、何もできませんでした。

オトさんが書いていた、もう一回だけ弦を鳴らす手って、これのことだったんだ、と思いました。

みんなで観るのと、ひとりで観るのと

どっちがいいか、という話ではないと思います。

友だちと同時視聴で観た『ぼっち』は、ほんとうに楽しかった。毎週の、あの通話の時間は、私の高校時代のいちばんいい思い出のひとつです。みんなで笑うことで、ひとりで観ていたら気づかなかった面白さにも、たくさん気づけた。

でも、ひとりで観ないと、届かない場所もあるんだなって。

主人公は、ひとりだった子です。その子の話を、ひとりで観る。そうすると、画面の中の「ひとり」と、部屋の中の「ひとり」が、ちょっとだけ重なる気がしました。それは、みんなでいるときには、たぶん起きないことでした。

会に入って、変わったこと

一滴舎に入る前、私は作品を観るとき、いつも誰かと一緒でした。感想も、観終わったらすぐに文字にして流してた。

会に入ってから、少しずつ、ひとりで観て、すぐには感想を言わない時間を覚えました。灯さんが会でよく言う、見終わったあとに少し黙る時間、というやつです。最初は、正直ちょっと気まずかった。でも今は、あの数分が、けっこう好きかも。

同時視聴も、やめてません。今でも、新しいアニメの一話目は、友だちと一緒に観ることが多いです。そのうえで、好きになった作品は、あとからもう一回、ひとりで観るようにしています。

一回目は、みんなで笑う。二回目は、ひとりで黙る。

それが、今の私の感情浴のやり方です。

最後に

まだ観たことがない人には、ぜひ誰かと一緒に観てほしいです。そして、もう観たことがある人は、いつかひとりで、第八話だけでも観直してみてください。

あのとき一緒に笑った友だちに、久しぶりに連絡したくなりました。今度は、私から通話をかけてみようと思います。

(いちょう)

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