ラルム / 読みもの

2025.06.01文 はるまき

五年目の昼、十一人と画面の二人

日曜の朝、台所のテーブルに、ぬかにもらったタッパーがひとつ置いてあります。子どもたちが代わりばんこにふたを開けて、においをかいでは、変な顔をしています。

昨日は、感情浴会の五周年の集まりでした。忘れないうちに、書いておきますね。

朝いちばんの電車

先週の日曜が、第六十一回でした。灯の進行で『正欲』。答えの出ない回でした。その翌週の土曜に、昼の集まりです。

家のことは、前の晩のうちに済ませておきました。カレーを大鍋で煮込んで、洗濯物もたたんで。子どもたちを家族に頼んで、朝いちばんの電車に乗りました。膝の上には、はるまきの唐揚げ。揚げものは、やっぱり持っていきたかったんですよね。

場所は、都内の貸しスペースです。お昼の十二時から、夕方の五時まで。

十一人と、画面の二人

同じ部屋にいたのは、十一人でした。灯、凪、ロク、栞、はるまき、ヤギ、めじろ、ぬか、草餅、こはぜ、タカノツメ。

オトは夜勤明けで、家から画面で。いちょうも、遠くの家から画面で加わってくれました。テーブルの端にノートパソコンを立てて、二人の顔がそこに並んでいました。

はるまきは、開票の夜に三回、同じ部屋に行っています。でも、ヤギとぬかとこはぜに会うのは、これが初めて。めじろは、こういう集まりに来ること自体が初めてでした。

五年、毎月画面で顔を見ているのに、初めて会うんです。いや、ほんとに、最初の十分くらいは、みんなちょっと敬語でした。

持ち寄ったもの

テーブルの上が、すぐにいっぱいになりました。

ぬかのぬか漬け。草餅の草餅。夏の合宿のときも持っていったらしいです。タカノツメは激辛のおせんべいで、ほとんど本人しか食べていませんでした。ロクは全員ぶんの缶コーヒー。灯は、水筒にほうじ茶。めじろは、子どもと型を抜いたクッキー。形がちょっとずつ、ゆがんでいました。

写真は撮らないでおこう、と灯が最初に言いました。みんな、うなずきました。だから、この日のことは、こうして書いておくしかないんですよね。

五年前の第十話

いちばんのお楽しみは、第一回の作品を、もう一度観ることでした。

五年前の五月、第一回で観たのは、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の第十話です。そのときは、灯と凪と栞の三人だけ。はるまきは翌月に加わったので、その夜のことは記録でしか知りません。創刊号でその記録を読んだとき、洗濯物をたたむ手が止まっちゃったのを、よく覚えています。

今回は、部屋のスクリーンで。オトといちょうは、それぞれの画面で、同じ時間に。凪が、三、二、一、と数えました。五年間、いつもの合図です。

観ているあいだ、部屋のあちこちで、鼻をすする音がしていました。画面越しだと、マイクを切っているから聞こえない音です。こんなにたくさん聞こえるものなんですね。

終わってから、いつもの決まりどおり、誰もしゃべりませんでした。十一人が同じ部屋で黙っていると、空気がずしっと重たくて、でも、いやじゃない重さでした。

最初に声を出したのは、ノートパソコンの中のいちょうでした。もう話していいですか、って。それで、みんな笑いました。

いちばん残った回

そのあと、一人ずつ、五年でいちばん残った回を話しました。全員ぶんは書ききれないので、少しだけ。

凪は、第二十回の、南極を目指す女の子たちのアニメ。ヤギは、自分が初めて進行した第十一回の、砂漠を歩くゲーム。めじろは、第二十六回の赤おにの絵本。ロクは、回ではなく数を言いました。六十一回、抜けた月なし、と。

はるまきは、第三十六回の『ブラッシュアップライフ』です。自分が進行した回なので、ひいきです。

灯は、少しだけ、と言ってから、全部、と言いました。ずるいですよね。でも、灯らしいなと思いました。

帰りの電車

帰りは、窓の外がだんだん暗くなっていきました。膝の上の唐揚げの容器は空っぽで、代わりにぬか漬けのタッパーが載っていました。

家に着いたら、子どもたちはもう寝ていました。煮込んでおいたカレーは、ちゃんと減っていました。

次に同じ部屋に集まるのは、たぶん十二月の開票の夜です。それまでは、いつもどおり、毎月の画面の中で。

(はるまき)

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