ラルム / 読みもの

2023.08.19文 ヤギ

山の家で、二十五話ぶん跳んだ 五人の夏合宿

ビニールのボールが手首の内側に当たる、ぺちっという感じが、一週間たってもまだ残ってる。

お盆の金曜から二泊、信州の貸し別荘に行ってきた。凪、ぬか、草餅、こはぜ、俺の五人。一滴舎で泊まりがけの集まりをやるのは、これが初めてだ。

言い出したのは凪

去年の十二月、初めての開票の夜。俺は画面の向こうにいた。貸し会議室の凪が、急にこっちを向いて言った。夏に、泊まりで、長いアニメを一気に観たい。

画面の中で手を挙げたのが、俺とぬか。会議室にいた草餅も挙げた。五月に加わったこはぜは、六月に誘ったら、行きます、と一行で返してきた。

五人のうち、顔を合わせたことがあるのは凪と草餅だけだった。俺とぬかとこはぜは、これが初対面。駅の改札で、画面で見るより日に焼けた凪と、画面で聞くより声の低いこはぜに会った。

電車で山のふもとまで行って、そこから先はレンタカー。運転は凪と俺で交代した。カーブの多い坂道を、ぐるぐる上がる。窓の外で、遠くの山が少しずつ近づいてきた。

二十五話

凪が持ってきた計画は、一行だけだった。テレビアニメ『ハイキュー!!』の第一期、全二十五話を、二日で観る。

高校のバレーボール部の話だ。背の低い主人公が、とんでもなく高く跳ぶ。凪は何回も観ている。草餅は漫画で読んでいた。ぬかとこはぜは初めて。俺は昔、途中まで観て止めていた。

一日目の午後、第一話を再生した。いつもの会なら、三、二、一で合図して、それぞれの部屋で再生を押す。数秒ずれる。今回はテレビが一台だけだった。ずれない。当たり前なのに、最初の数話は、それがずっと変な感じだった。

変な感じは、もう一つあった。隣で、誰かが息をのむ音がする。画面越しだと、マイクを切っているから聞こえない音だ。速い攻撃が決まった瞬間、五人が同時に声を出した。いちばん大きかったのは、こはぜだった。

一日目は第十一話まで。夜ごはんを挟んで、日付が変わる前に止めた。ここで止めるのがいちばんつらい、と凪は言いながら、止めた。

二日目は、朝から続き。最終話は夕方だった。終わったあと、いつもの決まりどおり、誰もしゃべらなかった。同じ部屋でも、それは変わらない。窓の外で、虫が鳴いていた。最初に口を開いたのは、ぬかだった。おなかが空きました、と言った。

庭で、少しだけ跳んだ

二日目の昼、途中で一度外に出た。草餅が、ふもとの店でビニールのボールを買ってきていた。五人で輪になって、レシーブを続ける。三回続かない。ボールは坂を転がっていく。取りに走る。また三回で落ちる。

いちばんうまかったのは、こはぜ。本人も驚いていた。俺は、手首の内側が赤くなった。この文の最初の一行は、そのときの話だ。

夜のゲーム

一日目の夜は、『桃太郎電鉄 〜昭和 平成 令和も定番!〜』。三年のつもりで始めて、終わったのは夜中の二時。ぬかは最後まで、いちばん堅い道しか選ばなかった。草餅は二年目の冬から、ずっと貧乏神に取りつかれていた。

二日目の夜は、『オーバークック2』。四人までしか遊べないので、一回ごとに一人ずつ交代する。料理のゲームになった途端、ぬかの声が変わった。玉ねぎを切る係を、誰にもゆずらなかった。俺は、皿を運ぶ途中で厨房に火を出した。ここで一回コントローラーを置いた。

食べたもの

ぬかが、小さな容器に入れたぬか床を持ってきていた。ふもとの直売所で買ったきゅうりと茄子を着いてすぐに漬けて、二日目の夜に出してくれた。一日目のカレーは、ぬかとこはぜが作った。

二日目の夜は、ウッドデッキで焼きそば。草餅は、地元の店の草餅を人数分持ってきていた。名前の話は、誰もしなかった。凪は二日とも、朝六時にデッキでカップ麺を食べていた。

画面の向こう

二日目の夜、最終話のあとに、少しだけ画面をつないだ。家にいた灯とロクと栞が出てくれた。三十分くらい。どの話で手が止まったか、と灯が聞いた。五人とも、違う話を言った。

帰り道

帰りの電車で、凪が、来週の会の映画はもう観たか、と聞いた。映画館で上映が続いている、バスケットボールの映画だ。五人とも、もう観ていた。

山を下りる道は、上るときより短く感じた。またやりたい、と全員が言った。次がいつになるかは、決まっていない。

手首の赤いのは、三日で消えた。ぺちっという感じだけが、まだ残ってる。

(ヤギ)

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