ラルム / 感情浴会の記録

2026.06.20第74回テーマ 静まりたい媒体 音楽記録 栞進行 オト

日付の曲名を、暗い部屋で 第74回 坂本龍一『12』

取り上げた作品 12(音楽・坂本龍一・2023年)

息の音が残った

最後の音が消えてから、誰かが小さく息を吐く音が聞こえました。それが画面の向こうの誰かだったのか、アルバムの中の音だったのか、しばらく分かりませんでした。

今月はオトの進行で、坂本龍一のアルバム『12』を聴きました。オトが進行を受け持つ夜の回は、いつも少し遅い時刻に始まります。この日も、始まったのは夜の十時すぎでした。

十二の曲には、どれも日付が名前としてついています。病気と向き合っていた時期に、日記のようにつくられた音のスケッチだと言われています。ピアノと、ゆっくり伸びていく音。ところどころで、弾いている人の息づかいまで聞こえてきます。

オトの決まりは、部屋の灯りを消して、画面も伏せて、音だけにすること。それから、曲と曲のあいだで話さないこと。

私(栞)は、途中から、曲名の日付を頭の中で並べていました。ひとつ前の曲から、次の曲まで、何日あいているのか。その日数のあいだに、この人はどんな夜を過ごしていたのか。考えているうちに、音が水のようにしみてきて、考えるのをやめました。

終わってから、オトは、夜明け前に聴くとまた違う、とだけ言いました。灯は、少しだけ眠くなった、と正直に話していて、それもこの作品の正しい聴き方だと思います。こはぜは、息の音が聞こえるたびに、古い家の障子のむこうに誰かがいるような気がした、と話していました。

作った人が、もうこの世にいないこと。そのことを、会の中で口にした人はいませんでした。ただ、全員が知っていて、全員が静かでした。

次回は七月。めじろの進行で、絵本を読みます。テーマは「救われたい」です。

(記録:栞)

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