主人公の最初の声が聞こえるまで、ずいぶん長く待った気がするのです。
今月はロクの進行で、ヴィム・ヴェンダース監督の映画『PERFECT DAYS』を取り上げました。昨年の暮れに公開された作品で、それぞれが観てから画面越しに集まりました。
東京で公衆トイレの清掃をしている平山という男の、毎日の暮らしを追う映画です。夜明け前に目を覚まし、植木に水をやり、車でカセットテープを聴きながら仕事へ向かう。昼は木漏れ日を小さなカメラで撮り、夜は銭湯と古本と眠り。同じような一日が、何度もくり返されます。
ぼくがいちばん覚えているのは、終わり近く、車を走らせる平山の顔をずっと映しつづける場面です。何も起きないのに、その顔の上で、笑うのと泣くのとが入れかわっていく。声は出ていないのに、声が変わる一瞬を聴いたような気がしました。
ロクは、画面の端に毎朝同じように映るものを数えていたそうです。要するに、くり返しがあるから、わずかな違いが大きく見える、と。灯は、観たあと一週間ほど、朝いちばんに窓をあけるようになったと話していました。
縁側で、柱時計の音だけを聴いているような二時間でした。
次回は六月。ヤギの進行で、ゲームの回です。
(記録:こはぜ)