画面の向こうから聞こえた最初のあいさつが、思っていたよりずっと低く、落ち着いた声だったのです。
今月から、タカノツメが会に加わりました。ドラマが得意だという新しい仲間で、この夜が初めての参加です。自己紹介は短く、辛いものと脚本の話になると長くなります、とだけ言って、みんなを少し笑わせていました。
進行は草餅。選んだのは藤本タツキの漫画『ルックバック』です。おととしのしずく大賞で漫画部門に選ばれた作品ですが、会で取り上げるのはこれが初めてでした。一冊で終わる長さなので、開始の合図から三十分、それぞれが手もとの本や画面で読み、読み終えた人から順にマイクをつける、という形にしました。
学年新聞に四コマ漫画を描いている小学生の藤野は、学校に来ていない同級生の京本の絵のうまさに打ちのめされます。卒業の日、先生に頼まれて京本の家へ証書を届けに行き、そこで思いがけないことを知る。物語はそこから、ふたりの長い時間へ進んでいきます。
ぼくがいちばん長く黙ってしまったのは、その帰り道の場面でした。雨のなかを、藤野がひとりで、跳ねるように歩いていく。台詞はほとんどなく、絵だけが続きます。それなのに耳の奥で、雨の音と、水たまりを踏む音が鳴っていたような気がするのです。声のない場面なのに、声が変わる一瞬のようなものが、たしかにありました。
草餅は、同じ場面の見開きで一度本を閉じた、と言っていました。机に向かうふたりの背中が何度も描かれていて、題名もそこにつながっているのではないか、という読み方も、草餅に教わりました。
後半に起きる出来事については、この夜は誰も細かく話しませんでした。ただ、凪が最後の数ページをもう一度めくって、しばらく黙っていたことだけを書いておきます。
タカノツメは、初めての会の感想を聞かれて、漫画でこれほどしびれたのは久しぶりである、と話していました。
柱時計がひとつ鳴るくらいの、短い沈黙の多い夜でした。
次回は十二月。灯の進行で、「誰かに会いたくなりたい」をテーマに小説を読みます。記録は、タカノツメが初めて受け持つことになりました。
(記録:こはぜ)