上の子のピアノの発表会が、ちょうど会の前の日でした。体育館みたいな小さなホールで、子どもがつっかえながら一曲弾き終えて、はるまきは、なぜか自分のほうが手に汗をかいていました。その次の日に、この本の話をしたんです。
三月の感情浴会は、恩田陸の小説『蜜蜂と遠雷』。進行はオトで、オトが進行をするのはこれが初めてでした。ロクは仕事のシフトが重なって欠席。九人です。
ある国際ピアノコンクールに集まった若いピアニストたちの話です。家にピアノを持っていない少年、一度舞台から逃げた元天才少女、働きながら出場する楽器店の青年、そして完璧に見える優勝候補。予選から本選まで、コンクールの日々がそのまま描かれていきます。分厚い本なので、読み切れなかった人は、第二次予選までと決めました。
オトの進行は、ちょっと変わっていました。話のあいまに、小説の中で弾かれる曲を、何曲か短く流してくれたんです。ここ、この曲なんだ、と誰かが言って、そのたびに、みんな本の頁を探していました。
ふるえた場面は、見事にばらばらでした。
凪は、少年が初めて舞台に出てくるところ。会場の空気が変わるのが、文字なのに分かる、と。栞は、元天才少女が少年と二人で、夜にピアノを弾く場面。ぬかは、楽器店の青年が、生活の中で練習時間を捻り出しているくだりで、自分のお弁当作りの時間と重ねてしまったそうです。ヤギは、演奏の場面を読むと、ゲームのボス戦の曲が頭の中で勝手に鳴りはじめた、と言って、オトに少し笑われていました。
はるまきは、やっぱり楽器店の青年です。うまい人たちの中で、うまいだけじゃない何かを探している。いや、ほんとに、ああいう人がいちばん心に来るんですよね。前の日に子どもの演奏を聴いたばかりだったので、なおさらでした。
あとで、欠席したロクから、来月までに読んでおく、とだけ連絡が来ました。
来月は、はるまきが進行です。ドラマの回で、記録はヤギ。
(記録:はるまき)