イヤホンを耳に押しこんだ指が、再生を押す前に一回止まった。一枚を曲順どおりに聴く、というのをちゃんとやるのは、たぶん初めてだったからだ。
七月の感情浴会。進行は栞で、音楽の回。作品はYOASOBIの『THE BOOK』。今年の一月に出た一枚で、入っている歌は、どれも一つずつ小説をもとに作られている。栞のルールは前の音楽回と同じで、曲順のまま、飛ばさずに、それぞれの部屋で同時に聴く。はるまきは子どもが熱を出して欠席。七人だった。
聴き終わってすぐ、凪が、この中の一曲は四月に読んだ漫画とつながっている、と言い出した。『ブルーピリオド』の話だ。「群青」は、あの漫画に着想を得て作られた曲だった。俺は知らなかった。三か月前に同じ画面で話した作品が、別の形でまた戻ってきた。こういうことがあるから、毎月の会は続けておくもんだと思った。
元気を出したい、というテーマについては、みんな少しずつ違うことを言っていた。
灯は、明るい曲なのに、元になった小説はどれも少し寂しい、その組み合わせで元気が出る、と。栞は、曲と曲のあいだの短い無音が好きだったらしい。ロクは、テンポが速いのに歌がずっと落ち着いている、その骨組みの話。めじろは、子どもがそのうちの一曲だけ覚えて家で歌っている、と笑っていた。
俺の話。会の次の朝、この一枚を聴きながら近所の坂を走った。走るつもりはなかった。歩いていたら、三曲目あたりで足が勝手に速くなって、気づいたら坂の上にいた。息は切れた。でも、朝の空気が軽かった。
元気って、出そうとして出すもんじゃなくて、足のほうから先に来ることもあるんだな。
来月は栞がまた進行で、朗読を聴く回。オトという新しいメンバーが入ってくるらしい。
(記録:ヤギ)