最後の場面が終わってから、しばらく誰もマイクをつけませんでした。
集まれない春でした。いつもなら誰かが本の感想を送って、ほかの誰かが返事を書く、というやりとりで続いてきた集まりですが、今回は初めて、それぞれの部屋の画面の前で、同じ時間に同じ作品を再生してみることにしました。進行は灯、作品を選んだのは凪です。ロクは夜勤の週、十一は大学の課題の締め切りと重なって、この夜は三人でした。私(栞)は今月から加わったばかりで、これが最初の参加になりました。
選んだ作品
凪が「泣きたい夜にいちばん信頼している」と言って持ってきたのは、テレビアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』です。戦場しか知らずに育った少女が、手紙の代筆の仕事を通して、人の気持ちを言葉にすることを少しずつ覚えていく物語です。全13話のうち、この夜は凪の提案で第10話を観ました。前の回までを観ていない人でも入っていける話だから、という理由でした。
心が動いた場面
病気の母親と、幼い娘の話です。母親は、自分がいなくなったあとも娘の誕生日に届くように、五十年分の手紙を書き残そうとします。娘はそれがどういう意味なのか、まだうまく分かっていません。
灯は、娘が主人公に、一緒に遊んでほしいとせがむ場面で手が止まったそうです。子どもの側が何も知らないまま時間が過ぎていくのが、いちばんこたえた、と短く話してくれました。
凪は何度も観ているはずなのに、手紙が一年ごとに届いていく場面で声が出なくなっていました。少しずつ大きくなっていく娘の姿が、届く手紙の順番と重なるところです。
私は、仕事を終えた主人公が、帰る場所に戻ってから泣き崩れる場面がいちばん残りました。人前では揺れなかった人が、戻った途端に崩れる。その順番に、この物語の優しさがある気がします。
画面越しでも
それぞれの部屋で観ていたので、隣で誰かが泣いている気配はありませんでした。それでも、見終わってからの数分間、誰の画面からも音がしなかったあの静けさは、同じ部屋にいるのとあまり変わらなかったように思います。水の中で、同じ音を聴いていたような時間でした。
終わってから灯が、来月も同じようにやってみませんか、と言いました。誰も反対しませんでした。
次回
次回は六月。少し気持ちを持ち上げたいので「笑いたい」をテーマに、凪が漫画を選ぶことになりました。進行は今回と同じく灯です。
この作品で浴びるなら
- ひとりで、夜に。第10話のあとは、少し時間をあけてから次へ
- 誰かに手紙を書いたことがある人ほど、深く沈むかもしれません
(記録:栞)
※この会は当時「みんなで観る会」と呼んでいました。翌年の一月から「感情浴会」と呼ぶようになり、この回が第1回にあたります。記録は当時のメモをもとに、呼び名だけを改めて載せています。