コントローラーを握った手のひらが、汗で少し滑った。洞窟の出口を抜けて、初めて外の光を浴びたときのことだ。
目の前に、草原が広がっている。遠くに、空を突き抜けるくらい大きな金色の木が見える。右のほうには崩れた教会。左のほうには崖。どこへ行ってもいい。誰もそう言わないのに、そう分かる。
そして、その草原の真ん中を、金色の鎧の騎士が、馬に乗ってゆっくり行き来している。
俺はまっすぐその騎士に向かっていって、三秒で倒された。
負け続けること
このゲームは難しい。有名な話だ。でも、難しさの話だけで終わらせたくないので、ここでは別のことを書く。
あの騎士には、そのあと何十回も負けた。途中で気づいた。倒さなくていいんだ、と。草原は広い。騎士の周りを大きく回りこめば、別の道がいくらでもある。
ここで一回コントローラーを置いた。
負けたことが悔しかったんじゃない。自分が、目の前の一番強そうなものに、なぜか真っ正面から向かっていくくせがあることに、気づいてしまったからだ。ゲームの話なのに、ちょっと耳が痛かった。
城の門の前で
草原を回りこんで、別の道を進んでいくと、やがて大きな城の前に出る。門の手前の橋で、背の高い、杖を持った敵が待っている。
こいつにも、何十回も負けた。今度は、回りこむ道がない。避けて通れない相手だった。
一週間、毎晩、同じ橋の上で倒された。途中で、別の地方を歩き回って、体を鍛えて戻ってきた。それでも負けた。最後の夜、地面に残されていた見知らぬプレイヤーのしるしから助っ人を呼んで、二人がかりで、ようやく門をくぐった。一人で勝ったわけじゃない。でも、門をくぐった瞬間の、背中が熱くなる感じは、たぶん一生忘れない。
祝福のこと
この世界には、ところどころに小さな金色の光がある。祝福と呼ばれている。そこで休むと、体力が戻る。負けたときには、最後に休んだ祝福からやり直しになる。
俺は祝福を見つけるたびに、そこでしばらく座りこんでいた。画面の中の主人公も、座る。二人で、遠くの山を眺める。
雨の降る湿地で、ずっと迷っていたとき、崖の下にぽつんと光る祝福を見つけた。あのときの安心は、うまく言えない。長い坂道を登りきって、ようやく平らなところに出たときの感じに近い。
ひとりなのに、ひとりじゃない
このゲームは、基本的にひとりで遊ぶ。でも、地面のあちこちに、ほかのプレイヤーが残した短いメッセージが落ちている。この先に敵がいる、とか、ここで休め、とか。たまに、嘘も混ざっている。
見知らぬ誰かが、同じ場所で、同じように負けて、何かを残していった。その跡を見るたびに、この広い世界のどこかで、同じように苦戦している人間がいるんだと思えた。顔も名前も知らない。それでも、少しだけ背中が軽くなった。
しずくのこと
しずくは三つにした。
心が大きく揺れる場面が、たくさんあったわけじゃない。泣いてもいない。ただ、何十時間も遊んでいるうちに、負けることがこわくなくなった。それが、このゲームが俺に残したものだと思う。
去年の暮れの第2回しずく大賞で、ゲーム部門に選ばれた。票を入れたメンバーの何人かは、俺と同じように、最初の騎士の話をしていた。
誰に
- 何かに負け続けていて、やめたくなっている人
- 真っ正面からぶつかるくせがある人。回り道も道だ
- ひとりで遠くへ行きたいけど、少しだけ誰かの気配がほしい人
いつ
冬の、ひとりで過ごす週末に。まとまった時間があるときがいい。そして、負けて腹が立ったら、祝福の前で座って、炭酸を一口飲んでほしい。画面の中の山は、たぶん現実の山より遠い。でも、ちゃんと歩いていける。
作品データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作品名 | ELDEN RING(エルデンリング) |
| 開発 | フロム・ソフトウェア |
| 発売 | 2022年2月 |
| 機種 | 家庭用ゲーム機とパソコン |
| 遊び方 | ひとりで遊べる。ほかの人のメッセージや協力で、ゆるくつながれる |
