ラルム / しずく通信

2020.07.12第1号夏号編集 はるまき寄稿 はるまき・灯・十一

しずく通信 創刊号(2020年 夏)

掲載にあたって この号は、発行した当時の文をそのまま載せています。「感情浴」という呼び方は、この半年ほどあとに使い始めたものなので、この号には出てきません。当時「みんなで観る会」と呼んでいた集まりは、いまの感情浴会のことです。

もくじ

  1. 創刊にあたって(灯)
  2. みんなで観る会の記録 第1回・第2回
  3. 寄稿 背景の空の話(十一)
  4. 夏の選書
  5. 次の会のお知らせ
  6. 編集後記(はるまき)

創刊にあたって

(灯)

夜の九時すぎ、窓を開けたまま、これを書いています。雨上がりで、網戸の向こうが少しだけ湿っています。

一滴舎は、去年の十一月に、本や音楽の感想を送り合う数人のやりとりとして始まりました。誰かに勧めたいというより、心が動いたことを、誰かに聞いてほしかった。たぶん、最初はそれだけでした。

この春、集まれない日が続きました。それで五月から、画面越しに同じ作品を同じ時間に観る会を始めました。やってみると、感想を送り合うのとは少し違うものが残りました。同じ場面で黙る人がいる。違う場面で泣く人もいる。その違いを、あとから読み返せる形で残しておきたくなりました。

「しずく通信」は、そのための会報です。季節ごとに、年に四回出します。会の記録と、メンバーの短い文章と、次の季節に読んでほしい、観てほしい作品を載せていきます。

名前は、一滴舎の「一滴」から取りました。大きな波ではなく、しずくくらいの大きさで、少しずつ心に落ちるものを集めていけたらと思います。

編集は、六月から加わってくれたはるまきが引き受けてくれました。わたしは進行役のまま、少しだけ書く側にまわります。どうぞよろしくお願いします。


みんなで観る会の記録

記録係の栞のメモをもとに、はるまきがまとめました。

第1回(五月) 泣きたい 『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』

初めての画面越しの会。進行は灯、作品は凪が選びました。この夜は灯・凪・栞の三人。テレビアニメの全13話から、第10話を一緒に観ました。病気の母親が、幼い娘のために五十年分の誕生日の手紙を書き残す話です。

灯は、何も知らない娘が遊んでほしいとせがむ場面で、凪は手紙が一年ごとに届いていく場面で、栞は主人公が帰る場所に戻ってから泣き崩れる場面で、それぞれ手が止まったそうです。見終わってから数分間、誰の画面からも音がしなかった、と栞のメモにあります。

第2回(六月) 笑いたい 『よつばと!』あずまきよひこ

前の月にたくさん泣いたので、今回は笑う回。進行は灯、作品は凪が選んだ漫画です。はるまきが初めて参加し、この回で初めて六人全員がそろいました。第1巻をそれぞれ読んできて、当日はほかの巻から一人一つずつ、好きな話を持ち寄りました。

引っ越してきた五歳のよつばが、見るもの聞くもの全部に全力で驚く。その驚き方がいちいち大げさで、読み上げているうちに、読み上げている本人が笑って続きを読めなくなる、ということが何度もありました。凪が持ってきたのは、段ボールで作ったロボットの話。ロクはふだんあまり笑い声を出さないのですが、この話のときだけは、マイク越しにはっきり聞こえました。

栞のメモの最後には、泣く会と同じくらい、笑う会のあとも体が軽かった、と書いてあります。


寄稿 背景の空の話

(十一)

入道雲。その手前に、自転車と坂道。人物は小さい。

アニメを観るとき、ワタシはまず空を観る。人物の顔より先に、背景の空の色。そこに、その場面の気持ちが先に置かれていることが多いのである。

細田守監督の『時をかける少女』は、夏の空の映画である。何度も同じ日をやり直す少女の頭上に、いつも同じような入道雲がある。真っ白で、輪郭がくっきりしていて、少し現実よりも大きい。やり直しても、やり直しても、空だけは動じない。一枚の絵として観ると、あの雲は、取り戻せない夏そのものに見える。

新海誠監督の『天気の子』は、反対に、雨の空の映画。灰色の街に、ほんの一瞬だけ光が差す。つまり、光。雨の場面が長いからこそ、晴れ間の数秒が、胸の奥に焼きつく。

泣く場面で、空が晴れていることがある。笑う場面で、雲が低いこともある。人物が何も言わないとき、背景が代わりに言っている。

この夏、どれか一本を観るなら、一度だけ、人物ではなく空を追ってみてほしい。構図の余白に、その場面の本当の気持ちが置かれているはずである。


夏の選書

この夏に読んでほしい、観てほしい、聴いてほしい作品を、メンバーが一つずつ選びました。

『西の魔女が死んだ』梨木香歩(小説)
選んだ人:灯。学校に行けなくなった少女が、初夏のひと月を祖母の家で過ごす話です。庭の野いちごと、洗いたてのシーツの匂いがする本。梅雨の終わりに。

『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(テレビアニメ)
選んだ人:凪。子どもの頃の仲間が、夏にもう一度集まる話です。全11話、最終話の少し手前から、自分は毎回息が続かなくなります。

『ジョーズ』スティーヴン・スピルバーグ監督(映画)
選んだ人:ロク。海に入る前に観るか、入ったあとに観るか。前半、サメはほとんど画面に出てこない。出てこないから怖い。

大滝詠一『A LONG VACATION』(音楽)
選んだ人:栞。一枚を通して聴くと、夏の午後がそのまま終わっていく気がします。曲と曲のあいだの短い静けさまで含めて、どうぞ。

『すいか』木皿泉脚本(テレビドラマ)
選んだ人:はるまき。下宿で暮らす大人たちの、ひと夏の話です。いや、ほんとに、何も大きなことは起きないのに、観終わると冷えた麦茶が飲みたくなるんですよね。

『時をかける少女』細田守監督(アニメ映画)
選んだ人:十一。寄稿に書いたとおり。空を観てほしい。


次の会のお知らせ

  • 第3回(七月) テーマ「懐かしみたい」。作品は湯本香樹実の小説『夏の庭 The Friends』。進行は灯、記録ははるまきが担当します。夏休みの少年たちの話なので、読むなら今のうちに。
  • 第4回(八月) テーマ「ぞくっとしたい」。進行はロク。作品は会の前に知らせます。

参加しているメンバーには、いつものように日程の連絡が届きます。


編集後記

(はるまき)

六月から加わったはるまきです。家族が寝たあとの一時間で、少しずつこの号をまとめました。

五月の会の記録を読ませてもらったとき、画面越しで、三人で、あんなに静かに泣いていたのかと思って、洗濯物をたたむ手が止まっちゃいました。六月の会ではたくさん笑ったので、その落差もふくめて、この会はいいなあと思っています。

次の号は十月、秋の号です。それまでに、七月・八月・九月の三回の会があります。季節の変わり目の会がどうなるのか、はるまきも楽しみです。

しずく通信 創刊号 2020年7月 編集:はるまき

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