ラルム / しずく通信

2025.10.05第22号秋号編集 はるまき寄稿 はるまき・こはぜ・ヤギ

しずく通信 第22号(2025年 秋)

秋の号のはじめに

(はるまき)

九月の会の前の晩に、カレーを大鍋で煮込みました。三時間ちかい映画を観に行くために、次の日の夕飯を先に作っておいたんです。そのカレーが、この号を書いているいまも、まだ少し残っています。

この夏の三回は、時間の長さがばらばらでした。二十二分を何度も繰り返すゲーム。一話ずつは短い、古い怪談。そして三時間ちかい映画。長さは違っても、どれも、終わったあとにしばらく誰も話さなかった回です。


もくじ

  1. 秋の号のはじめに(はるまき)
  2. 感情浴会の記録 三つの時間(第63回〜第65回)
  3. 寄稿 秋の夜の怪談(こはぜ)
  4. 寄稿 遠くへ行けるゲーム(ヤギ)
  5. 秋の選書
  6. 次の会

感情浴会の記録 三つの時間

二十二分 第63回(七月) 寂しさに浸りたい 『Outer Wilds』Mobius Digital

進行はヤギ、記録はロク。小さな星がいくつも太陽のまわりを回っていて、主人公は木と金属でできた宇宙船で、その星々を調べて回ります。二十二分たつと、すべてが最初に戻る。知ってしまうと面白さが半分になるゲームなので、ヤギはいつもと形を変えました。集まった時点で、最後まで遊んだ人が五人、途中の人が五人、始められなかった人が三人。最後まで遊んだ五人は、終わりの話をしない決まりで、会のあと別の部屋で話したそうです。いちょうは、霧の立ちこめた星で怖くなって、そこから先へ進めなかったと正直に話していました。

三話ぶん 第64回(八月) ぞくっとしたい 小泉八雲『怪談』(朗読で聴く)

進行はこはぜ、記録はタカノツメ。お盆明けの土曜に、三つの話を朗読で聴きました。吹雪の夜の山小屋の話、夜の坂道で顔のない人に出会う話、目の見えない琵琶弾きが毎夜ある客たちの前で語る話。二つ目の話の最後で、聴いている全員の息が止まったと、記録にあります。灯りをつけたとき、画面に映った全員の顔が、少しだけ白く見えたそうです。

三時間ちかく 第65回(九月) ふるえたい 『国宝』李相日監督

進行はロク、記録ははるまき。この夏に公開されて、上映が続いている映画を、それぞれ映画館で観てから集まりました。任侠の家に生まれた少年が、歌舞伎の名門に引き取られ、その家の跡取り息子と兄弟のように育っていく話です。ロクは、舞台の骨組みを裏側から見せる映画だ、と言っていました。何人かが、もう一回観に行くかもしれない、と言っていて、はるまきもその一人です。


寄稿 秋の夜の怪談

(こはぜ)

柳田國男の『遠野物語』を朗読で聴いたとき、一行目の声が、昔話を語るおばあさんの声ではなく、淡々と記録を読みあげる声だったのです。それが、ぼくには意外でした。

八月に、ぼくが初めて進行を受け持って、八雲の怪談を聴く回をやりました。夏の怪談は、怖がるための怪談です。秋の夜の怪談は、少し違う気がしています。怖いというより、さびしい。

『遠野物語』は、東北の山あいの村に伝わる、不思議な話を書き留めた本です。山の神の話、家に住む童の話、神隠しにあった娘が何十年ぶりに帰ってくる話。どれも短くて、説明がありません。ただ、そういうことがあった、と書かれているだけです。朗読で聴くと、その説明のなさが、秋の夜の長さに、ちょうど釣り合うのです。

内田百閒の『冥途』は、夢のような短い話が並んだ本です。土手の下の、薄暗い一膳めし屋で、誰かと隣り合わせになる。その人が誰なのか、最後まで分からないまま、声が遠ざかっていく。障子一枚むこうで、知っている人が話しているのに、どうしても顔が見られない。そういう怖さです。

秋の夜は、雨戸を閉めて聴くと、柱時計の音が、夏よりも少しだけ大きく聞こえます。


寄稿 遠くへ行けるゲーム

(ヤギ)

焚き火の前で、マシュマロを刺した棒を持ったまま、しばらく動けなかった。

七月の会で進行した『Outer Wilds』の話から始める。宇宙の果てまで行けるゲームだ。でも、俺がいちばん遠くへ来たと感じたのは、最初の焚き火の前に戻ってきた瞬間だった。二十二分ごとに、そこへ戻る。戻るたびに、宇宙のほうが少しだけ近くなる。遠くへ行くって、行った距離じゃなくて、戻る場所との距離なんだな、と思った。

もう二本。

『Sky 星を紡ぐ子どもたち』。雲の上の王国を、知らない誰かと手をつないで歩くゲーム。言葉は通じない。四年前に会でやった『風ノ旅ビト』と同じ人たちが作っている。あの雪山の、隣にいた誰かの感じが、ここにもある。

『A Short Hike』。小さな島で、山のてっぺんを目指して登るだけ。二時間くらいで終わる。頂上に着いたとき、遠くの海が全部見える。ここで一回コントローラーを置いた。

遠くへ行きたい、という気持ちは、たぶん、今いる場所がちゃんとあるから出てくる。セーブする前の数秒、俺はいつもそれを考えている。


秋の選書

作品 選んだ人 ひとこと
『イン・ザ・メガチャーチ』朝井リョウ(小説) 灯 先月出たばかりの本です。何かを信じて集まる人たちの話。秋の夜、たぶん、少しずつしか読めません
『チ。―地球の運動について―』(テレビアニメ) いちょう 地動説を命がけで受け継いでいく人たちの話。一話目の終わりで、気づいたら正座してました
『からすのパンやさん』かこさとし(絵本) めじろ からすの家族のパンやさん。いろんな形のパンが一ページにずらっと並ぶところで、子どもと一緒にいつも止まります
『ノーカントリー』コーエン兄弟監督(映画) ロク 乾いた荒野。音楽がほとんどない。足音だけで怖い
『ダンジョン飯』九井諒子(漫画) ぬか 十一月の会で読む漫画です。ひと月前から、少しずつどうぞ。白いごはんより先に、鍋が欲しくなります

次の会

  • 第66回(十月) テーマ「誰かに会いたくなりたい」。ゲーム『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』。進行はヤギ、記録はめじろ。
  • 第67回(十一月) テーマ「おなかを空かせたい」。九井諒子の漫画『ダンジョン飯』。進行はぬか、記録は草餅。

しずく通信 第22号 2025年10月 編集:はるまき

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