夏の号によせて
(はるまき)
梅雨が明けたと思ったら、いきなり暑くて、台所で麦茶を二回沸かしました。
この春の三回は、刑事ドラマで走って、教室でときめいて、絵本で泣く、という三回でした。とくに六月の絵本の回は、読み終えてから、画面の中の大人がみんな黙っちゃって。はるまきは、あんな静かな泣き方の会は初めてでした。
今号は、いつもの寄稿のほかに、小さな欄をひとつ作りました。会の外で、この春それぞれが浴びたもの。一人ひとことずつです。
もくじ
- 夏の号によせて(はるまき)
- 感情浴会の記録 第24回〜第26回
- 寄稿 絵本の中の雨(めじろ)
- 寄稿 夏休みに遊んだゲーム(ヤギ)
- 会の外で、この春に浴びたもの
- 夏の選書
- 次の会
感情浴会の記録
第24回 四月 すっきりしたい
『MIU404』(テレビドラマ・野木亜紀子脚本) 進行:はるまき 記録:ヤギ
第1話をみんなで同時に再生して、第4話までは各自で観てきました。事件の現場へ真っ先に駆けつける部隊で組まされた、正反対の二人組の話です。はるまきの推しは、二人が乗ることになったメロンパンの移動販売車。記録のヤギは、第1話の終わりで膝を一回叩いていたそうです。先月読めなかった『蜜蜂と遠雷』を、ロクがこの回までに読み終えてきたことも書いておきます。
第25回 五月 ときめきたい
『スキップとローファー』高松美咲 進行:凪 記録:ぬか
地方の小さな町から東京の高校へ進んだ、少しずれたところのある真面目な女の子の話で、第1巻を読んできました。ぬかの初めての記録です。ときめいた場面は、恋の場面とは限りませんでした。ぬかは、主人公が教室で誰かと初めてお昼を食べる場面。机をくっつける音が聞こえてくるようだった、と書いています。
第26回 六月 泣きたい
『ないた赤おに』浜田廣介・作/いもとようこ・絵 進行:めじろ 記録:栞
めじろの初めての進行で、絵本の回。それぞれ同じ本を手もとに用意して、めじろがいつも子どもに読むのと同じ声で、最初から最後まで読んでくれました。話し合いは、ほとんど青おにの話になりました。栞の記録は、泣いたのが読んでいた人ではなく、聴いていた大人たちのほうだった、という一文で終わっています。
寄稿 絵本の中の雨
(めじろ)
雨の日、どこにも行けなくて、子どもが本だなから引っぱりだしてきたのは、字のない絵本でした。
太田大八の『かさ』です。女の子が赤いかさをさして、駅までお父さんを迎えにいく。それだけのお話で、文字はひとつも出てきません。まわりは灰色の雨の町で、女の子のかさだけが赤い。読み聞かせのとき、あたしは何も読むことがないので、子どもと一緒に、赤いかさを指でおいかけます。
ピーター・スピアーの『雨、あめ』も、字のない絵本です。雨の日に、きょうだいが外へ飛びだして、水たまりで遊んで、びしょぬれで帰ってくる。家に帰ると、あったかいお風呂と、温かい飲みものが待っている。ページをめくる手が、そこで少しゆっくりになります。
字のない絵本を読むと、雨の音がよく聞こえる気がするんだなあ。声を出さないぶん、窓の外の音が、そのまま絵本の中に入ってくる。
六月の会で『ないた赤おに』を読んだ日も、雨でした。読み終えたあと、しばらく誰も話さなくて、みんなの部屋の雨の音だけが、画面ごしに重なっていました。あの音も、たぶん、あの絵本の一部でした。
寄稿 夏休みに遊んだゲーム
(ヤギ)
扇風機の風で、画面の前の紙が一枚飛んだ。攻略のメモだった。拾わなかった。
小学生の夏休み、親戚の家にあったゲーム機で、『ぼくのなつやすみ』を遊んだ。田舎で過ごすひと月。虫を捕って、川に入って、夕飯の時間に帰る。それだけのゲームを、本物の夏休みのあいだに遊んでいた。外は本物の蝉。画面の中も蝉。どっちの夏にいるのか、分からなくなる瞬間があった。
最後の日が来る。帰らなきゃいけない。ここで一回コントローラーを置いた。子どもだったから、なんで手が止まったのか説明できなかった。今なら分かる。終わることが分かっている夏を、ちゃんと最後まで歩いたのが、あれが初めてだったんだと思う。
今月の会で進行する『MOTHER2』は、実は子どもの頃には遊んでいない。俺が生まれる前のゲームだ。今年の夏休みに、初めて遊んでいる。大人になってから遊ぶ子どもの夏は、また別の坂道だった。どう別なのかは、会で話す。
会の外で、この春に浴びたもの
灯 通勤の電車で、窓の外の田んぼに水が入っていく一週間を見ていました。作品ではないけれど、たぶん、これも少しだけ。
ロク 平日の昼の映画館で、客が僕を入れて三人だった。三人とも、エンドロールの最後まで座っていた。
鹿の子 ところで、読み終えた推理小説を、犯人を知らない友人に貸した。筆者は、その友人の顔を見ないようにしている。
オト 夜勤明け、雨の中の始発。窓に当たる雨の音が、一枚のアルバムより長かった。
ぬか 初めて自分で梅干しを漬けました。できあがるのは夏の終わりです。待つのも、立派な感情浴であります。
夏の選書
『ピンポン』松本大洋(漫画)
選んだ人:凪。卓球部の高校生たちの話で、最後の試合の数ページは、読んでいる自分の手のひらにまで汗が出てくるんです。
『海街diary』吉田秋生(漫画)
選んだ人:ぬか。鎌倉の古い家で暮らす四人の女きょうだいの話です。しらすをのせたごはんの場面で、白いごはんが欲しくなります。
中村佳穂『AINOU』(音楽)
選んだ人:栞。声と楽器の境目が、ときどき分からなくなる一枚です。夕方、窓を開けて、一枚通して聴いてみてください。
『エイリアン』リドリー・スコット監督(映画)
選んだ人:ロク。宇宙船の配線と配管の映画。怪物より、廊下の暗さが怖い。
次の会
- 第27回(七月) テーマ「懐かしみたい」。ゲーム『MOTHER2 ギーグの逆襲』。進行はヤギ、記録は灯。長いゲームなので、どこまで遊ぶかはヤギが決めてくれます。
- 第28回(八月) テーマ「笑いたい」。映画の回です。進行はロク、記録はぬか。
しずく通信 第9号 2022年7月 編集:はるまき